雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「そして、すぐにフォローです!」
「確かに、喧嘩になるということは、少なくとも妻が私に対して怒りを感じているという状態のことだよな? それは、非常にまずい。すぐにでも解消しないと大変なことになるかもしれない。それで、フォローというのは具体的に?」
おいおい、常務。どれだけ、心配なんですか。
それだけ、奥様に嫌われたくないという思いの表われか。
「妻である前に一人の女性です。大切にされていると実感できれば、許せてしまうもの。喧嘩をしてしまった翌日には、食事に誘ってみるとか、何か贈り物をするとか。決して高価なものでなくていいんです。『私のことを考えてくれていたんだ』と思えればいいので。そして、真摯な態度で謝る。これにつきると思います」
めんどくせーな。ったく。
どうして、自分の嫁にそんな気を使わなくちゃならないんだ?
そう思いますよね? 常務――。
「分かった。覚えておこう。どっちがどうだなんて理由はどうでもいい。大事に至る前に、妻の怒りを解くことの方がずっと大切なことだな」
常務……。
仕事の鬼、仕事に関しては冷酷非道と言われる常務を、ここまで下手にさせる奥様って、一体どんな人なんだ?
三井ではないが、俺も、そんな奥様に会いたくなって来た。一目、会ってみたい。
「はい。絶対、大丈夫だと思います」
三井、常務の役に立てたと誇らしげでかつ……異常に嬉しそうだ。
そして、心なしか、顔が赤い。
こいつ、もしかして……。
まあ、いいか。そんなこと俺にはどうでもいい。
「では、次ですが……」
う……っ。
これは、これだけは、勘弁してくれ。
「いくらなんでも、いくらなんでも、それだけはご容赦ください」案件だ。