雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

「本日は本当にありがとうございました。こちらの無理な質問にも真摯にお答えくださって、感謝します」

これ以上、ヤツを暴走させられない。
三井の言葉に被せるようにして、心から常務に頭を下げた。

「本当に感謝しかありません。こんなに答えてもらえるとは、正直なところ期待しておりませんでした」

これまで貝のように黙っていた室長が、ニヤニヤしながら言葉を挟んで来る。

「答えなくても良かった、ということですか――?」
「い、いえいえ。本当にありがたい限りです。社員も喜ぶことでしょう」

特に、女子社員がな――。

「では、これで終了ということで――」

一刻も早く俺たちを追い出したいのか、神原さんが終わらせようと必死になっているのに、またまた空気の読めない三井がアホなことを言い出した。

「き、記念に! みんなで、写真を撮りませんか?」
「記念って、何の記念ですか!」

こいつは、神原さんを苛立たせる天才かもしれない。

それはただおまえが榊常務と一緒の写真が欲しいだけだろ!

「常務、構いませんか?」

こういうところ、意外とずる賢い。神原さんではなく、張本人に直接交渉するんだから。

「まあ、私は構わないが」
「あ、ありがとうございましっ」

”しっ”ってなんだよ。嬉しすぎて興奮して噛みやがった。

「じゃ、じゃあ草陰係長、写真、お願いします」

あっという間にカメラを係長に受け渡した。

「え、え? 俺?」
「はい、よろしくお願いします!」

ほんっと、ちゃっかりものだ。

というわけで。
常務のデスクの前で、
榊常務、神原さん、寺内さん、俺、三井、おまけに室長の6人が並ぶ。

並び順は……。


(寺内さん)(室長)(榊常務)(神原さん)
    (俺)      (三井)


微妙に女子の攻防があったが、この形に落ち着いた。

どこか不服そうな草陰係長が、二回ほどシャッターをおして、撮影は終わった。

「ではでは、本当に、お疲れ様でした。では、常務はこの後ご予定がありますので――」

神原さんが榊常務の前に出て来て、はっきりとそう俺たちに言い渡した。

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