雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「常務、本当にありがとうございました!」
三井が、さっきの号泣は嘘のようにすっかりおおはしゃぎである。
「すみません! 本当の本当に最後のお願いなのですが――」
まだあるのかよ――っ!
「えっ?」
今、同じようにぎょっとして声を漏らす神原さんを見逃さなかった。
「なんだ?」
「あ、あの……、スマホの待ち受け、奥様にしていたり、しませんか……?」
「え……?」
三井、相変わらずチャレンジャーだな!
本当に呆れるほどに感心する。
その貪欲さはどこからくる!
と思いつつ、俺も、実は、もし奥様の写真があるのなら、見てみたい……。
「待ち受け、にはしていない」
榊常務が三井に背を向けて、口籠るようにそう答えた。
「公の場で使うことも多い。さすがに、人目に触れるところにはしない」
「じゃ、じゃあ、スマホの中には保存されていたりしませんか?!」
榊常務の背中に向かって声を発する。
引き下がらない三井。
俺は、その攻防を固唾を飲んで見守る。
「それは――」
「三井さん。常務もお忙しい身ですから、いい加減にしてください。奥様なら、私、お会いしたことあります。本当に可愛らしい、素敵な方です。これでよろしいですか?」
そこに神原さんまで加わり、三井もなかなかに厳しい状況だろう。
「可愛らしい? 美人系ではなく可愛い系ということですね? 意外です! 女子社員の妄―想像では榊常務の奥様はきりりとしたクールビューティーな感じだという意見が大勢で。見てみたいです。余計に、見たくなりました!」
神原さん――。三井を余計に煽ってどうするんですか。
「み、三井さんっ!」
「――写真は、もちろん、ある」
「「えっ!」」
神原さんと三井さんがハモる。
ニュアンスの違いは明らかだが。
三井は歓喜の目。
神原さんは驚きの目。