雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「み、見たいです! もちろん、常務のお気持ち次第ですが……」
少し、申し訳なさそうな目をして、榊常務を覗き込むように見上げている。
「まあ、写真くらい、問題ないか……」
「はい! 問題ありませんっ!」
常務……。三井にサービスし過ぎです。でも、俺もちゃっかり三井の後ろから覗き込む。
「うわーっ! 可愛い! それに、なんというか、すごくすごくお優しそうな方ですね。はにかんだ笑顔が、胸がきゅんと締め付けられます」
三井が騒いで、興奮して、足踏みしている。
こ、これは――。
俺は、スマホ画面に映る微笑みを見て、胸を撃ち抜かれた。
超、ドストライクなんですけど――!
その写真は、おそらく。
キッチンで料理中の奥様に常務が呼びかけて、その振り向きざまを撮ったものと思われる。
振り返った、奥様の素の表情。
その素の表情が、驚きながらも本当に嬉しそうで。弓なりになる瞳が、はにかんだようで、男の庇護欲をかき立てる儚さも漂って。
特別美人ということはない。
目を引く分かりやすい可愛さでもない。どちらかと言えば地味な顔立ち。なのに――。
でも、非常に心癒される雰囲気。
この人が、榊常務が溺愛してやまない女性なのか――。
ついつい見てしまう。
「もしかして、これ、常務の一番のお気に入りですか?」
「――もう、気が済んだな。これ以上見せたら減りそうだ」
三井の問いかけに、常務は咳ばらいをして、すぐさまスマホをポケットにしまった。
「――今回のインタビューで、常務と奥様のお話が、私たち職員が想像していたより遥かに愛にあふれたものだと知ることが出来て、本当によかったです」
急に三井がしみじみと呟く。
「もう、感動です」
「ほら、三井、もう失礼するぞ」
さすがに長居し過ぎた。
おそるおそる神原さんをちらりと見ると、呆れたのか諦めたのか、もう無言のまま立っている。
「はい。では、本日は大変お世話になりました!」
広報室の面々皆でお礼をして、常務室を後にした。