雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


* * *

 広報誌年末特大号が、発行された。

「広岡君! すごい反響だよ! これ、重版いくよ!」
「バカか。社内広報誌に重版があるかよ」
「女子社員が、閲覧用と保存用とで2部欲しいって言うんだもん!」

確かに、社内の評判はすこぶるいい。ここ数日の社内の話題は、広報誌、つきつめれば榊常務の話題で持ちきりだ。

 一般社員にとっては、ベールに包まれていた雲の上のお方。
 その人の、あんなにも率直な(プライベートにまみれた)インタビューが掲載されたのだ。誰もが興味を引くだろう。

『妻が趣味』

あの言葉のインパクトは相当だったみたいだ。女子社員たちが、昼の食堂で、給湯室で、盛り上がっているらしい。

 俺は俺なりに、達成感を得ていた。広報誌の作成に達成感なんてものを感じたのは初めてだ。
 そして、常務の人柄に触れられたのも、嬉しかったのかもしれない。つい、この顔が緩む。

「ねぇ――。私、いいこと考えてるんだけど」
「おまえのいいことは、だいたいとんでもないことだよ」

三井が俺の耳に顔を近付けて来る。

「打ち上げ、しない? 広報誌の作成打ち上げ!」
「打ち上げ? まあ、やればいいんじゃないのか? ああ、でも。どうせそろそろ広報室の忘年会があるだろ」
「違うって。広報誌係と常務とで」
「な、なにっ!」

俺は、思い切り三井の方に振り向いてしまった。

「おまえ、そんなこと神原さんが許すはずがないだろ」
「そこは、大丈夫。もう、根回しは始めてる。私たちだけじゃ、神原さんも動かないだろうと思ったから、もう一グループ巻き込んだ」
「もう一グループ……?」

俺は怪訝な目を三井に向ける。

「そう。ほら、先月、榊常務の指示で、大きな契約を決めたっていうじゃない? その時のプロジェクトチームだよ。彼らにも提案してみたらのって来たの。みんな、常務とお近づきになりたいんだよ。だから、プロジェクトチームと私とで、神原さんのところにおうかがいに行って来たわけ」
「おまえの行動力が、俺は怖いよ……」
「えへ」

三井がまた気持ち悪い笑顔を見せる。

「今、神原さんに交渉中なんだけど……。常務には、ぜひ、奥様を同伴していただけないかと」
「な、なに……っ!」

俺の声が裏返る。

「あれぇ……。何、急にテンション上がってんのぉ? 広岡君も奥様に会いたいんでしょう? 榊常務にしてみれば、みんな部下だもの。部下の誘いを無下に断ったりしないと思うけどな―。どう? この企画、協力する?」
「……仕方ない。広報誌を作ったのは俺だ。協力しないわけにはいかないだろ」

そんなこと、実現するのなら。会ってみたいに決まっている!

「よし! 決まりっ!」

三井が、俺の肩を叩く。


それにしても、この企画実現するのか――?




【(1) 広報室広報誌係 広岡広史の場合 終わり】
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