雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
はぁ――。
世間は、クリスマスだ年末だと、どこか忙しない。
「えみり、またそれ見てるの?」
「え? ああ、うん」
お昼休憩の社員食堂で、コロッケがメインのA定食をつまみながら、自作のアルバムに見入っていた。
「どれどれ……。ああ……確かに、いいよね、その写真」
トレーを手にしてやって来て、私が見ていた写真を覗き込んで来た。私の向かいの席に着いたのは、倉っち。同期女子で、彼女は経理課にいる。
「でもね。私の一番のお気に入りは、こっち!」
開いていたのは、社内広報誌にも掲載したインタビュー時の榊常務の写真。それを一枚めくる。
私が咄嗟に撮ったこの一枚――。
腕時計を確認している、素の常務の姿。
「ほら、こっちの方が、撮られているという意識がない素の常務を切り取れているでしょう? 素なのに、様になってるってどんだけよー。この日のさ、少し光沢の入った明るいネイビーのスリーピースのスーツに水色のクレリックシャツ、そんでもってグレーのネクタイっていうお姿。最高にスタイリッシュ。スーツ姿で腕時計を見る姿、鉄板だよね?」
「うんうん。なるほど」
「でもさ、こっちの写真も捨てがたいんだよ。常務のデスクで撮ったこの一枚。いかにも”デキル男風”でしょ? って、常務は本当に仕事ができるお方なんだけど」
「ああ、確かに。この写真もいいね」
「あーん。でもでも、この腕組んで考え込んでいる座り写真もいいよね? 組んだ脚の長いこと! この時ね、奥様のことでの質問の答えを考えている時のものなんだけどね? どことなく、表情柔らかいよね? そんなところもたまらない――」
「あのさ」
「ん?」
少し大きい声で、挟まれた言葉に顔を上げる。
「榊常務がカッコいいのも、あの広報誌が最高だったってのも、まったく異論はないんだけど。あんた、常務に直に接したこのインタビューの日から、”榊熱”が以前に増して強まってない?」
倉っちが、頬杖をついて私を見る。
「そんなの、あたりまえじゃん。こっそりファンだった人を間近に見られてお話まで出来たんだよ? 盛り上がっちゃうに決まってるじゃん」
大真面目に答えた。