雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「そんな風に偉そうに答えられても。相手は、丸菱の御曹司でおまけに既婚者。そんな人に熱をあげるっていうのは、あまりオススメしないけど?」
倉っちが、B定食の茄子とトマトのスパゲッティーをフォークに絡ませていた。
「ばかっ! 榊常務をそんな目で見ているわけがないでしょうが! 尊敬する人であり憧れる人。たとえれば、テレビの中の好きな俳優さん、みたいなものだよ。現実で自分と結び付けたりするわけないじゃん。あ、でも、理想のタイプにはなったな。間違いなく」
うんうん。と腕を組んで一人納得する。
「それもそれで、相当に危険だよ? あんな人、世の中にごろごろ転がってたら、適齢期の女子は誰も苦労しないのよ。金持ってて? 男らしくて? 仕事できて? 将来約束されていて? おまけに妻を溺愛? そんな人に出会って、それも自分を選んでくれるなんて、宝くじにあたるより難しいわ」
倉っちが鼻で笑う。
「もー。倉っちはいつも夢がないんだから。そんな現実的なことばかり言ってたら、人生楽しくないよ」
「あんたみたいに、夢みたいなことばかり考えている方が、あとで取り返しのつかないことになると思うけど? 現に――」
ちらりと横目で私を見た。
「あんたはフリーで、私は彼氏持ち。これが何よりの証拠よ!」
「むかーっ。それは言いっこなしだよ。私だって、私だって、榊常務の奥様みたいに、誰かに溺愛される予定なんだから――」
「それにしても、あのインタビューは女子社員全員の心を奪ったよね。それだけは認める。私だって、あの広報誌を読んだ後、3日くらい自分の彼が霞んで見えたもん」
「んー」
二人して、同時に溜息を吐く。
どうして、身近にはいないのに、確実に存在はするのだ?
とにかく。
私は、大学四年生の時目にした『週刊経済』に出ていた榊常務の姿を見た時から、密かに憧れていたのだ。