雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
丸菱テクノロジーに就職することが決まっていた大学4年の12月。
同じ系列の丸菱グループの人が掲載されているとあって、興味本位で見てみたのがきっかけで。それで目にした榊常務の写真と、インタビュー記事に心奪われたのだ。
それから時が経ち、まさか私の勤めている会社にやって来るなんて。
心の中が狂喜乱舞だったのは、おわかりでしょう?
「榊常務、『liberty』っていうファッション誌に掲載されるかもしれないから。今、私、頑張ってるとこ! 広報マンとして、これは絶対イケるという確信があるんだもん。楽しみにしていて」
「本当に? あんたも頑張るねー。確かに、あの醸し出す雰囲気は圧倒的だし、かなりのイメージアップになるかも。頑張れー!」
「うん!」
今現在、室長はかなり乗り気だ。
それで今、秘書の神原さんにそのボールを投げている途中。絶対いい返事をもらうべく、猛プッシュしているところだ
そして、もう一つ――。
私が精力的に動いている一件。
題して、
『榊常務と奥様を囲んで』
裏題、
”常務と奥様を呼んで飲み会しちゃおうぜ presented by 三井”
である。
先月、常務と海外出張に行っていた営業二課の人を引き込んで鋭意計画中である。今日も、この後、密に連絡を取る予定だ。
そうそう、広岡君のことを忘れていた。彼も、最近仲間に引き入れた。
いつも覇気がない彼が、無表情な顔をしながら心の奥底で榊常務の奥様に会いたいなんてことを思っているということは、気付いている。そこを、上手く利用させていただいた。
だって、『打ち上げ』なんて、本来なら私が音頭を取る立場にないのだから。私はただの手伝いで潜り込んだだけだ。あくまで、広報誌の作成は広報誌係のもの。だから、広岡君は絶対に必要な人材だったのだ。
私、こう見えて策士でもある。