雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「……創介さん、私、夕飯の支度をしないと」
時間をかけて抱き合ったせいで、二人してまどろむように寄り添っていた。ソファの上だから、頭の先からつま先まで、密着している。
剥き出しの肩が動き、雪野が俺の腕から逃れようとしたのを、咄嗟に引き留めた。
「まだ、いいだろ? もう少し、こうしていたい」
「あ……っ」
雪野のやわらかな胸に顔を埋めると、雪野が可愛い声を漏らした。
「ダメです、もう、暗くなっちゃうから――」
「おまえを食べるから、いい」
「そんな……っ」
すっかり正気に戻ってしまった雪野を、どうやってまた引きずり込もうかと考える。
胸元に、耳たぶに、唇を這わせて抱きしめる。
「おなか、すいたでしょ? 夕飯食べよう?」
吐息を漏らしながらも、雪野も譲らない。
「確かに、激しく動いたから腹は減ってる。でも、俺は雪野で腹がいっぱいになるみたいだ」
この存在は、俺の脳を溶かしてしまうらしい。かなり怪しい発言をしているという自覚はあるのに、臆面もなくそんな言葉を吐いている。
「これから、毎日、雪野を食べたい」
「ば、ばかっ」
雪野が肩をすくめて、俺をたしなめる。
「妻を食べてしまいたくなるほど可愛いと思うのは、夫なら普通だろ? あのダイニングテーブルで、おまえを組み敷きたい」
「おかしなこと言わないで。恥ずかしい、から……」
恥ずかしがらせたいんだ――。
「――言ったはずだ。この家のそこら中で、おまえを襲うって」
「創介さんっ」
同じ空間にいつでも雪野がいて、何もせずにいられるはずもない。これまで、こんな環境に身を置くことなんてできなかった。
同じ家で、雪野が暮らしている――。
俺の理性なんか、紙きれ以下の軽さで吹っ飛ぶだろう。