雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「遅くなっちゃったけど」
結局、雪野の抵抗には勝てずキッチンに送り出すことになった。その結果、俺の目の前には雪野の手料理が並んでいる。
「どれも、美味そうだな」
白米に味噌汁、煮物と、肉と。和食の献立になっていた。
「どちらかというと和食の方が得意で。でも、少しずつ洋食のメニューも覚えますね」
俺の正面に座る雪野が笑顔でそう言った。
「おまえの作るものは、全部美味いよ。これから毎日食べられるのかと思ったら最高だな」
「創介さんが口にして来たものを考えれば、どうってことない料理です。今日のも、時間がなくてさっと作ったものばかりで……」
相変わらずの自己評価の低さに、少し意地の悪いことを言うことにした。
「俺が美味いと言ってるんだ。他のどれとも比べたりするな。次、そんなことを言ったら、キッチンで襲うぞ」
「キッチンって……。そんなの、困ります。キッチンは料理をするところです!」
また顔を赤くして。怒って見せたところで、可愛いだけだ。
「……まあ、イヤなら本気で抵抗してくれ。それなら、途中でやめてやる」
「創介さん!」
「せっかくの料理だ。いただこう」
早速口にすれば、やはり優しい味だった。
「美味いよ」
「良かった……」
結婚したのだと、また改めて実感する。
「明日はまた、披露宴に出席した社の幹部やらに挨拶回りをしなければならない。おまえも慣れないことで大変かもしれないけど、少しずつ経験を積んで行けばいいから」
「はい。精一杯、頑張ります」
雪野が笑顔を引き締めて俺を真っ直ぐに見た。
「あまり無理はするな。最初から何でも完璧にやれる人間なんていないんだから」
「はい」
雪野が本当の意味で榊家の人間としての重責を知るのは、これからだろう。
俺の中に、雪野に対する申し訳ないという気持ちがある。だからこそ、一番近くで支えてやりたいと思う。
「何か辛いことがあったら、必ず俺に言うこと。いいな?」
「はい」
雪野が、はにかむように嬉しそうに微笑んだ。
この先もその笑顔を守って行きたい。