雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


「三井さん、どうしたの、こんなところで」

踵を返そうとしたところで、読者さんがやって来た。

「しーっ、です。向こうに榊常務と奥様が二人でいて。なんかいい雰囲気だったので、お邪魔しちゃいけないかと……というか、あまりに熱々で見ていられなくて。えへへ」
「だったら戻っちゃだめじゃない。そのまま様子をうかがっていないと」
「え……、えっ?」

読者さんが目だけを壁の角から出して様子をうかがっている。

「えっ! 見るんですか?」
「だって、向こうが、人が通るかもしれないところにいるんだから」

じゃあ、私も――ってなるじゃん!

と、読者さんのせいにして結局私も見ている。

おお、まだ囁きあっている!

「――これ以上酔うなよ。人目もはばからずに襲うぞ」
「創介さんが言うと、冗談に聞こえないから怖いです」
「冗談なんかじゃねーよ。俺の本気を見せてやろう――」

え、え、え―――!

思わず隣にいる読者さんの腕を掴んでしまった。

き、キ、き、キ、キス、しましたーーーーーーーーーー!

(み、見ちゃいました?)
(見ちゃいました。他人のキスシーン、結構微妙?)
(あなたが見ると言ったんです!)

こそこそと言い合う。言い合いながらも、この視線は二人に釘付け。

筋張った大きな手のひらが頬を覆い、唇を重ねて……。

どことなく強引ささえ感じるキスが、超絶かっこよくて。その姿は本当に、美しかった。そう、美しいという形容詞が相応しい。
まるで映画のワンシーンを切り取ったみたい。
読者さんと言い合うのも忘れて、ぽかんと見つめてしまった。

「――分かったか。俺は、本気だ。気を付けろ」

その蠱惑(こわく)的な瞳。関係ない私までぞくりとした。
あんなのを間近で直接受けたら、意識を失う自信がある。

奥様、あんな感じなのをいつも?

そりゃあ、ドキドキもするでしょうよ。

「そ、創介さんっ! 誰かに見られたら……っ」
「見られてもいい。おまえは俺の妻なんだから、何の問題もないだろ」

く――っ!

問題ありまくりです! 
ここに、過呼吸にさせられている人間が一人!
私、くるしーです。

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