雪降る夜はあなたに会いたい 【下】

 何事もなかったかのように戻って来た私たちの前に、何もなかったかのように帰って来た常務、そして少し緊張気味の奥様。

もう、本当に、ラブラブですな……。

私はもう、魂抜かれてます。


 それから最後まで、みんなの笑顔は消えなくて。本当に楽しかった。そして何より、奥様が本当に楽しそうにしてくれて本当によかったよ。

 榊常務も、もう吹っ切れたのか(というか諦めたのか)、ただ飲んでいた(あれは、間違いなく自棄酒)。
 でも、奥様を見守る瞳はどこまでも優しくて。奥様のことが何よりも大事なんだと、私までも幸せな気持ちになった。


「今日は、本当にありがとうございました。楽しくて、あっという間の時間でした」

帰り際に、奥様がとびっきりの笑顔でそう言ってくれた。

 そして常務は常務で、最後まで男前で。こちらが企画して招待したにも関わらず、「常務からのご寄付です」と神原さん伝いに封筒を渡してくださり。結局、この飲み会、常務が全部払ってくれちゃったことになってしまった。申し訳ないけれども、ありがたく頂戴しておくことにした(ちゃっかりもの)

 皆で頭を一斉に下げて、常務をお見送りした。仲睦まじい、奥様と常務の並んで歩くその背中をぽやんとしながら見つめていた。

「あーあ。私も、憧れていたんだけどな……」
「えっ?」

その囁きに驚いて、ぱっと隣に顔を向ける。そこにいたのはただの酔っ払いだった神原さん。

神原さん――もしかして、常務のことを……。リアル、ラブだったのか?

でも、それは聞かなかったことにしておいた。

酔って出た言葉だものね。
うん。

でも、秘書として傍で仕えていたら、私だってそんな気になってしまったかな……。

いや、やっぱりそれはない。恐れ多すぎる。憧れくらいがちょうどいい。

「……俺も、恋、したい」
「――は?」

ここにも一人、感傷的になっている男が……。

「まだ若いんだし、できるんじゃない? 私は絶対するけどね!」

広岡君の丸まった肩をぱんと叩く。

「いてぇな」
「可愛くて? 優しくて? そんな人がいるかどうかは知らないけど!」

ニヤリとする私に、憎々しげな視線を広岡君が向けて来た。

「そっちだって。常務みたいな男はいないからな!」
「ふんっ!」

広岡、うるさい。

何はともあれ、榊常務、楽しいお時間、ありがとうございました――。



【『(2) 広報室広報係 三井えみりの場合』 終わり】

ただただ、ふざけまくっていただけの
番外編1。

お付き合いくださり本当にありがとうございました。

当時、自分でくだらないと思いながら、
創介……アホだな、と思いながら、
雪野……やっぱりアホだな、と思いながら、
少しでも笑ってもらえたならと書いていたのを思い出しました。
何せ、本編がシリアスなことばかりだったので(汗)

時系列的に、雪野はとても辛い時期でした。
なので、この飲み会は余計に楽しかったんだと思います。
楽しみたいとも思っていて、羽目をはずしちゃいましたね。
いつも抑え込むタイプの人間だから、少し解放したくなったんでしょう(苦笑)
ということで、彼女のこともおおめにみてもらえれば幸いです。

次の番外編も、創介さんが壊れ気味ですが、よろしければお付き合いください(苦笑)

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