雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――ここ最近、土曜に仕事が入って悪いな」
五月最後の週末。支度を終えて、マンションエントランスへと向かう。
「ううん。会合も大切な仕事ですからね。お疲れ様です」
俺の隣に立ちながら、雪野が微笑んで見上げる。
それにしても、少しずつ元気になって来て良かった――。
流産した日から、雪野の表情も日に日に明るくなっている。
それでも、その胸の内にはまだ哀しみが残っているだろう。雪野が言葉にしなくても、その気持ちを汲んでやりたいと思う。
「明日は休みだから、どこかに行くか?」
「でも、毎日忙しいんですから、創介さんも一日くらいは家でゆっくりした方がいいと思います」
五月に入って、会合やオフィスでの緊急の会議、そんなものが続いていた。そのたびに土曜日を一人で過ごさせている。少しくらいは、雪野をどこかに連れ出してやりたいと思った。
「俺は、そんなには疲れてないが――」
「意識しないうちに疲れは溜まっているものです。私のことは気にしないで」
「あ、ああ……」
そう言って来る雪野の顔をまじまじと見つめる。
俺に遠慮して無理しているようにも見えないか……。
「私は私で、やることならいくらでもあるんですよ。だから、本当に気にしないで」
むしろ、どこか楽しそう――?
少し疑問にも思ったが、雪野が元気ならそれが何よりだ。
「――じゃあ行って来る」
「はい。いってらっしゃい」
雪野に見送られて、迎えの車に乗り込んだ。