雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「――あ、ああ」
ドアの向こうに向けた声は、嫌でも固くなる。
「お茶、持って来ました」
トレーを手にした雪野が、開いたドアから顔を出した。こちらへと向かって来るその表情は、見慣れた雪野のものなのに。先ほどの電話の会話が耳に残って、心は乱される。
「最近、忙しそうだけど、あまり無理しないでくださいね」
そう言って、俺のデスクにそっとマグカップを置いた。
「……まあ、あと少しの期間だから」
椅子に座る俺の隣に立つ雪野を見上げる。
「週末をいつも一人にしてしまっているが、そんなに寂しそうでもないな。もしかして、俺がいない方が……」
都合が良い――。
「え……っ?」
いつもと同じ柔らかな雪野の表情が、一瞬にして変わる。
俺は一体、何を言おうとしてるんだ――!
発してしまった言葉に、自分をぶん殴りたくなる。
「何でもない――」
いろんな恐怖で一杯になって、雪野の腕を衝動のままに引き寄せた。
「そ、創介さん……?」
「愛してる」
「どうしたの? 何かありましたか?」
俺の膝に倒れ込むように腰掛けた雪野をきつく抱きしめる。
「俺はダメな男だ。でも、雪野をこの世で一番愛しているのは俺だ。それだけは間違いない」
驚く雪野に構わずに、ただ、きつくその腰と背中を囲う。
「そのことを忘れるな。絶対にだ」
雪野に何も聞けない代わりに、そんなことを必死に口にする。
どんな男が出て来ようとも、俺の想いに敵う奴なんていない。
「どうして、そんなこと。分かってます――」
戸惑いながらも俺の背中に手を回す雪野の唇を、強引に奪った。
拒まれたら……一瞬にして過った不安を力ずくで追いやるように、深く唇をぶつける。でも、雪野は少しも抵抗しなかった。