雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
私が丸菱グループ本社秘書課から丸菱テクノロジーに異動を命じられたのは、今年の四月のこと。
ちょうど、榊創介が丸菱テクノロジーの常務に就任するのに合わせてのことだった。
最初は、どうして私が、関連会社に、それもこんな小さな企業に出向させられなければならないのか分からなかった。
『榊創介氏が関連会社に出向することに伴って、常務に就任する。彼の秘書が勤まる人材は、あの出向先にはいない。あの方が特別な人だということは神原さんも知っているね? 立場が立場なだけに誰でもいいというわけにはいかない。その点、君ならなんの申し分もない』
私の上司、本社秘書課の倉内課長から直々に言われては、ただの秘書の私が「イヤだ」なんて言えるわけもない。