雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
四月になり、榊常務の秘書として仕えるようになってすぐに分かった。
この人がどれだけ有能か。そして、どれだけ特別な人か――。
最善の選択のためには、冷徹に判断を下せる。無駄な温情は一切挟まない。
その、感情などまるで持っていないかのような鋭く冷たい目と、上背のある皺一つない隙のないスーツ姿は、それだけで威圧感がある。そんな容姿のせいで、冷酷非道にも見えかねない。
でも、それだけじゃないと分かるのは、情を挟まず判断した結果が、巡り巡って必ず多くの人のためになっていると理解できるからだ。
結局、多くの社員を助けていることになっている。
そんなところが、私がすぐに榊常務に『上司として』惹かれたゆえんだ。
年齢は私と同じだけれど、今では、心の底から尊敬している。誰に対しても厳しいが、それ以上に自分にも厳しい。
関連会社だろうが僻地の営業所だろうが、この人のために働けるならどこに行っても構わないとさえ思っている。
冷たい物言いと、尊大な物腰――。
でも、それが嫌味に感じるどころか、”この人に認められるようになりたい”と思わせられる。
私にとって、榊常務は、確かに尊敬できるボスだった。
あの時までは――。