雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「ごめん。でも、由希乃どうしたの? 私、何か、気に障ること言った?」
「う、ううん。そういうことじゃなくて。秘書の立場で噂話なんてって、そう思っただけ」
こんな誤魔化し、通用するのか。
「そうだね。ごめん。でもね、榊さんがどうして関連会社に出向になったかの理由。これも噂の域を出ないんだけど、でも、私はあながち間違いでもないかなって思ってる」
「それ、どういう理由なの?」
どうして飛ばされたのか。
それは私がずっと知りたいと思っていたことだ。つい、食いついてしまう。
「昔から決まっていた縁談を破談にしたことに、榊さんのお父様、つまり社長が大変激怒されたらしくて。お相手もかなりの大物だしね。お相手の面目を保つためのペナルティ人事なんじゃないかって。そうじゃなきゃ、榊さんが飛ばされる理由がないもの」
「そんな……」
私は言葉を失った。
そんなにまでしても、手に入れたかった女性がいた――?
私は勝手に思っていた。あの人は、仕事のためには生きられても女のために生きるような人じゃないって。
そんなの、私の勝手な考えだった。
そして、勝手に、意味の分からない動揺に襲われている。
きっと、榊常務を夢中にさせるだけの人なのだ――。
すぐにそう思い直した。
そう思えば、自分を納得させられる。
予想に反して、余計に胸の奥が疼いたけれど、疼く理由も分からない。それに、どうして私自身が納得しなければならないのかも分からない。
上司が結婚する――。
そのことに私の納得など必要もないし、考える必要もない。
自分で自分が分からなくて、混乱した。
この感情の正体がまるで分からなくて頭を抱えたけれど、仕事は仕事としてきっちりこなした。