雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
3 立ちはだかる試練



 創介さんの会社のエントランスを出るとすぐに、走り出していた。

 一刻も早くここから離れて一人になりたかった。とにかく、心を落ち着けたかったのだ。

 秋の晴れ空は清々しいのに、時おり吹き抜ける風は冬に向かってもう冷たくも感じる。思わず胸元の白いブラウスをぎゅっと握りしめていた。

 こんなに走ったのは、いつ以来だろう。喉がひりひりとして痛くて、息苦しくて、駈け出していた足が止まる。

 街路樹に彩られた賑やかな歩道には、等間隔にベンチが設置されていた。そこに、腰を下ろし息を整える。

この街は、歩道を行き交う人も皆、颯爽として洗練されている。

ベンチに片方の手をつき、乱れた呼吸をなだめるように俯いた。

 この日、創介さんの会社に来ていた。創介さんの秘書の神原さんから、丸菱グループでの奥様たちとの付き合いについて教えてもらうためだ。

『――縁談を破談にし奥様とご結婚されたことの懲罰人事と、お相手の家の面目のため、本社からこちらのような小さい会社へと出向になった、ということです。それはすべて、お父様である社長が決められたとのことでした』

呼吸は次第に落ち着いて来たのに、神原さんから聞いた言葉が何度も頭を巡って、私の動揺を鎮めてくれない。

そんなこと、何も知らないでいた。知らずに、創介さんに笑いかけていた。

四月から半年間も――。



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