雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
ふっと息を吐く。どうしようもない罪悪感で胸が苦しくなる。
でも、私がそんなものを感じたからと言って、この現実が変わるわけでもない。だったら、創介さんのために出来る事は何かを考えるべきだ。
胸の奥が、さっきからずっと、ひりひりと痛い。神原さんに言われた言葉のどれもが、私を恥ずかしくさせる。
もっと、ちゃんとしないと――。
どんな覚悟も持っているつもりだったけれど、本当の意味では分かっていなかったのかもしれない。榊創介の妻になるということの現実を。
――しっかりしなさい、雪野。
母の声が聞こえて来た気がした。
そうだよね――。
俯いていた視線が私の靴から、スカートへと移る。
『もう少しお召し物にお気を使われた方がよいかと思います』
この日は職場である市役所からそのまま創介さんの会社へと向かったこともあり、普段の通勤スタイルで行ってしまった。
市役所というところは、華やかな民間企業とは違って、特別着ている物に意識を向けたりしない。こういう服の方が、私の職場では浮いたりせず馴染むのだ。
これでも、創介さんと一緒に表に出る時は、服装にも気を使っていた。今日は、油断してしまった。
ごめんね、創介さん――。
創介さんは、私の服装にとやかく言うことはない。
それも無理はない。お母様と言っても血は繋がっていない他人のような関係だし、兄弟も弟だけ。身内にほとんど女性がいない。女性の服など特に気に留めることもないだろう。
もっと、私、頑張るから――。
そう自分を鼓舞したら、少しだけ落ち着いて来た。そうだ。やるべきことはいくらでもある。
ベンチから腰を上げ、立ち上がった。