雪降る夜はあなたに会いたい 【下】
「面倒なこともないし、何よりこうして、雪野と一緒に過ごせる時間が多い」
創介さんの指が、私の頬を掠めるように触れて微笑む。私の胸はきりきりと痛んだ。
「創介さんはずっと本社で頑張っていたでしょう? いつだって仕事のことを考えて懸命に働いていたの、私でも分かります。それに、お父様だって、きっと創介さんに早くトップに立ってほしいって思っているはずで――」
つい、そんなことを勢いのままに放ってしまっていた。
「どうした? 心配するな。いずれ必ず本社には戻るから大丈夫だ」
必死になってしまっていた私を、創介さんが労わるようにそう言った。何故か私が励まされている。
「心配しているわけじゃなくて。ちょっと気になっただけなんです。すみません、勝手なこと言って」
「いいよ。でも、何よりまず先に、神原を本社に戻してやらないとな」
創介さんがふっと呟いた。
創介さんの口からその名前が出ただけなのに、意味もなく心に鉛のようなものがずしりと落ちる。
「神原さん、優秀だし、それにとっても綺麗な方でした……」
初めて目にした大企業の秘書。
立ち居振る舞いも容姿も本当に美しい人で、思わず見惚れてしまった。髪型もメイクも服装も、何もかもが洗練されていた。
あの、二人だけの時間が蘇って来て、また胸が軋むように痛む。
「まあ……秘書なんてみんなあんな感じだろ?」
創介さんの側に、いつもいる人。
それに、
きっと神原さんは創介さんのこと――。
……って、私、何を考えてるんだろう。
だめだ、ダメダメ!
そんなおかしなこと考えてはだめだ。
「一人で百面相して、どうした」
「何でもありません。神原さん、創介さんをきちんとサポートしようって、しっかり考えてくださっていて。それが、今日よく分かりました」
「そうだな。神原は有能な秘書だ。仕事もスムーズに運ぶ」
それが創介さんにとって何よりのこと。
神原さんは、絶対に創介さんのために働いてくれる人だ。それだけは何故だか確信できた。
だから私も。神原さんを信頼して、接したい。
弱い自分に、懸命に言い聞かせる。