主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
「━━━━未来に繋ぐ命の行為…か…」

その後、雲英と亞嵐は喫煙所にいた。
紅葉は父親と話があるらしく、会場にいる。

煙草を吸いながら、ポツリと言葉を吐く亞嵐。

「ん?」
雲英が、横目で亞嵐を見る。

「そんな風に考えたことねぇなと思ってさ」

「そう…だな。
紅葉様らしいな」

「“あの”澪雨が、意気消沈って感じだったもんなぁー(笑)
あれは、正直ウケた!」
亞嵐が、クスクス笑っている。


「…………確かに、不思議だよな…」
不意にポツリと呟く、雲英。

「は?」

「紅葉様は、どうして俺を選んでくれたんだろう」

「そんなの……
“未来に幸せを繋ぎたい”と思ったからじゃねぇの?
雲英と一緒に!」

「そうか…」

「そうだろ?
じゃねぇと、それこそお嬢様みたいなタイプは受け入れないと思う。
雲英だから、結婚した。
雲英だから、身体を開ける。
全部、雲英だから……!」

「そうだな」

「幸せに、しねぇとな!
お嬢様の未来を!」

「………あぁ!」

亞嵐の言葉に、雲英は微笑み頷いた。



「お待たせ、甲斐!」
「はい!帰りましょう、紅葉様!」

駐車場に向かい、車の助手席を開けた。
「どうぞ?」

「ありがとう!」
紅葉が乗り込み、雲英がシートベルトをしめる。
カチッと音がして、雲英がゆっくり離れた。

「閉めますね!」
そう言って、助手席のドアを閉め運転席に向かう。

紅葉は、ずっと雲英を見つめていた。

“身体だけの関係でしたから”

澪雨の言葉が、紅葉の頭の中で何度も繰り返されていた。

「紅葉様。では、出発━━━━━紅葉様!?」

紅葉は、泣いていた。
でも紅葉自身も、何故泣いているのかわからなかった。

雲英に、セフレがいたこと?
澪雨と抱き合っていたという事実?

「紅葉様、どうされました?」
運転席から乗り出すように顔を覗き込み、親指で優しく目元を拭う。

「わからない」

「ん?」

「なんだか、悲しい」

「僕と澪雨の関係、幻滅しましたよね……」

「そうじゃないよ。
確かに、信じられないことだった。
どうしても私には、理解できないことだから。
でも、甲斐は寂しかったんでしょ?
悲しかったんでしょ?
だから、心のバランスを取ったんでしょ?」

「はい、そうですね…
でも、紅葉様に知られたくなかったです……
どんな理由があっても、紅葉様のおっしゃる“神聖な行為”を汚したから」
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