主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
「━━━━そんな顔しないで?紅葉様」

口唇を離し、額と額をくっつけた雲英。
切なく、言葉を吐く。

「え?甲斐?」

「そんな切ない表情(かお)されたら、僕はどうしたらいいかわからなくなります」

「あ、ご、ごめんね」

「いえ…僕は、貴女が望むなら何でもします。
どうしてほしいか、言ってください。
…………あ!でも!
僕の愛情から離れるようなことは、出来かねますのでご了承を……」

「………寂しい…な…って、思っただけ」

「え?」

「ただそれだけだから、気にしないで」
安心させるように微笑む。

しかしその紅葉の笑顔は、雲英から見れば泣き顔にしか見えない。

「………………僕は、貴女の夫失格ですね……」

「は?甲斐?」

「貴女に“そんな”顔をさせてしまうなんて……
僕は貴女が生まれた日から、貴女を幸せにするために生きている。
……………申し訳ありません。
今、貴女を安心させるような言葉が見つかりません」

「………」

「………」
苦しそうに、顔を歪める雲英。


「━━━━━━そんなことで、夫失格なら……この世の中、私の旦那様に相応しい人なんかいないわ」
そんな雲英を真っ直ぐ見上げて、紅葉が言い放った。

「え……?」

「私の旦那様は甲斐しか務まらない。
だって、そうでしょ?
甲斐が私のお世話ばかりするから、私は甲斐がいないと生きていけないんだから。
それ以前に、私は甲斐がいい!
甲斐じゃないと、私は幸せになれない!
それに、甲斐が私に教えたんでしょ?
人を愛することを。
失格なんて言わないで、傍にいて?幸せにして!」

「紅葉様……はい!」

「次、失格なんて言ったら、しばらく口聞かないから!」

「え……そ、そんな……恐ろしい事を……
か、かしこまりました!
もう、二度と申しません!!
ですので、お許しを………」

「え?だから、次だよ!次の話!」


それから地下駐車場に着き、車に乗り込む。

後部座席を開け、微笑む雲英。
「紅葉様、どうぞ?」

「………」
しかし、乗ろうとしない紅葉。

「紅葉様?」

「ねぇ」

「はい」

「助手席に乗りたい」

「え?」

「甲斐の隣に座りたい」

「あ…あ…/////」

「ずっとね。
お付き合いしてた時から、言おう、言おうと思ってたの。
でも甲斐は、よく言うでしょ?
助手席が一番危ないって。
でも、甲斐の傍に……少しでも近くにいたい」

「は、はい/////
かしこまりました!
では、こちらへどうぞ!」
嬉しそうに笑って、助手席のドアを開けた雲英だった。
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