主従夫婦~僕の愛する花嫁様~
「亞嵐は、僕と違って“自由”だったから。
それに人懐っこくて、明るくて、優しく、それでいて強い。
僕とは正反対の性格。
紅葉様は、覚えていないみたいですが……
幼稚園児の頃の紅葉様、亞嵐に懐いてたんですよ?
だから当時は、亞嵐が羨ましくて堪らなかった。
執事としてのレールを走り続けないとならない僕と、自由にレールを選べる亞嵐。
いつも一人の僕と、自然と人が寄ってくる亞嵐。
紅葉様も、僕より亞嵐だった」

「甲斐…」

「もちろん、今は羨ましいとは思わない。
でも、どこか怖いです」

「え?怖い?」

「はい。
亞嵐に、紅葉様が取られるのではないかと……」

「え?どうして?」

「紅葉様、亞嵐に好意持ってますよね?」

「え?
まぁ、素敵な方だと思ってるけど……
でも!甲斐への気持ちとは、比べ物にならないよ?
ほら!神くんへの気持ちと同じ!
私、神くんのことも、お友達として好きってゆうか素敵だと思ってるから」

「ですよね。
僕はずっと、貴女のお傍にいるのでわかります。
僕が警戒心でいつもいっぱいなのは、それもあります。
これから先も、紅葉様の心を奪ってしまう男性が現れないとも限らない。
ちゃんと警戒しておかないと、紅葉様が連れ去れてしまう。
僕はもう……紅葉様のいない人生は考えられないので」

「でも、私だって甲斐じゃなきゃ嫌だよ?
甲斐のいない人生は、考えられない!」

「はい。ちゃんと、紅葉様のお気持ち届いてますよ!
申し訳ありません。
僕が勝手に、不安になってるだけです」

雲英の切ない表情に、紅葉も悲しくなる。

「…………どうすればいい?」

「え?」

「どうすれば、甲斐は安心できる?」

「紅葉様が今まで通り、僕のお傍にいてくれればそれで十分ですよ?」

「うん!傍にいる!」

「はい!
それと……」

「ん?」

「ここでキスしてくれたら、不安も吹っ飛びます!」

「え?」

「いつも恥ずかしがってる紅葉様から、この沢山の客が行き交う中でキスされたら………
“あぁ…僕は愛されてる”って思えるから!」

「………」

「なんて……(笑)
すみません(笑)冗談で━━━━━━」

ふわりと、紅葉の甘い香りが近づく。

雲英と紅葉の口唇が、重なっていた。


「………/////こ、これで、不安、飛んで行った?/////」
顔や耳を真っ赤にして見上げる、紅葉。

「……//////」
甲斐も、顔を赤くして固まっていた。

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