オレンジの片割れ
 次の日、久しぶりに朝の教室のドアを開けた。
「おはよう」
私の不安は、周のその一言によって掻き消された。窓側の1番後ろ、そのひとつ前の席から振り返った周はなんだか嬉しそうにしていた。
「何かいいことあったの?」
「うん。でも言わない」

 中庭で昼食を食べていると、周を見つけた。周は、人気者だ。いつもいろんな友達といるし、今も友達とふざけながら歩いている。羨ましい。そんな気持ちを無視して、周に気づかなかったことにした。昨日初めて話した周が目の前の席に座っているから、それだけの理由でなんとか教室にいたが、午後の授業は休んでしまおうか。私は手元の弁当だけを見つめてそう決めた。
 ……なのに。
「椿ー!」
再び周を見ると明るい笑顔で私を呼び、友達と一緒にこちらに向かっていた。彼らは購買からの帰りのようで、それぞれの手にはパンやジュースが握られている。
「俺らもここで食べていい?」
「え、うん。いいよ」
救世主……と呼ぶべきか。彼らは、ありがとうー。ごめんね急に。やっとお昼だ。とそれぞれ口にしながら、私の使っていた木製のベンチと机をいっぱいにした。
 隣に座る周はもちろん、他の周の友人たちも、私が今まであまり教室にいなかったことについて一切触れなかった。そして、変に気を使って遠ざけることも、彼らはしなかった。つい先程羨ましいと思った輪の中に自分が今いることに、私は気づいた。羨ましい、は、楽しい、に変化していた。

 私が帰り支度をしている時、また目の前から声がかかった。
「今日さ、またあの駅行かない?」
驚いた。私が一方的に言って、1人で楽しみにしていたあの約束を果たす日が、こんなに早く来たことに。
「……」
「あ、なんか予定ある?」
「ううん! 全然、なんにもない!」
「じゃあ、一緒に行かない?」
「行きたい」
「よかった。行こう」
周の足が、今か今かと出発を待っている。とっくに帰り支度を済ませた周が、早く早くと急かしている。一足遅れて私も支度を終え、立ち上がった。その時、部活開始のチャイムが校内に響いた。
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