姉の身代わりでお見合いしたら、激甘CEOの執着愛に火がつきました
幸運な縁
土曜の朝。
俺は九州に向かう朝八時半の便に間に合うようにと、今朝は五時すぎに起きていた。
今週末は地方の店舗を視察して回る予定があり、幸をデートに誘うのは断念した。
それでも昨夜でかなり関係は進んだから、とりあえず満足している。
軽めの朝食をとり、出張の支度をしているとスマートフォンが振動する。俺はネクタイを結ぶ手を止めた。
ついっとディスプレイに指を滑らせると、メッセージが表示される。
【おはようございます。昨日はいろいろとお世話になり、ありがとうございました】
早朝六時台に送信されたメッセージは、幸からのもの。
意外だった。彼女の性格からすると、緊急の用件でない限り、深夜や早朝のメッセージ送信は控えると思われたから。
おそらく『お礼を伝えなければ』『なんて送ろう』などを気にして、時間にまで気が回らなかったのだと推測する。
俺はジッと送られてきた堅苦しい文面を眺める。最後にひとつだけ、笑っている絵文字が添えられているのは、〝恋人〟らしさを出そうとしたのかもしれない。
「はは」
そう想像すると、思わず声に出して笑ってしまった。
目の前のことに真剣に取り組む彼女らしい。スマートフォンと向き合っている姿が浮かぶ。
俺はスマートフォンを手に取り、ソファに腰を沈める。そして、すぐさま彼女へ返信した。
【おはよう。月曜日に顔を見るのが待ち遠しい】
数秒後に既読がつくと、どんな返信が来るかわくわくしている自分がいる。
出かける準備そっちのけでディスプレイを見続けていると、彼女からの返信が来た。
【申し訳ないのですが、社内では業務外のことで話しかけるのはご遠慮ください。じゃないと、仕事に支障をきたす恐れがあるので】
すぐに次のメッセージが届く。
【大変恐縮ですが、まずは内密の方向で……】
ふたつに分けて送られてきたメッセージに目を丸くする。
「手厳しいなあ」
スマートフォンに向かってそうこぼすと、苦笑した。
彼女は俺たちの関係を隠したがっているのはわかった。だけど、その文面にネガティブな印象は一切ない。
俺は新名幸という女性の人柄を知っている。
彼女は決して冷たい性格ではない。むしろ、人情味ある温かな人だと。
彼女を初めて見たのは。四年前。俺が外商時代にそれぞれの店舗の実情を把握するために、日本橋店に訪れたときだった。
身長百五十五センチくらいの、小柄な容姿。そして、落ちついた暗めの茶髪は、後ろでひとつに束ね、髪型にちょっとアレンジを加えている。制服に乱れはなく、パンプスも磨かれていて潔感があり、笑顔が華やかな店員だった。
キッチングッズや日用品のフロアを通過すると、たまたま彼女が視界に入った。
三十代くらいの女性を接客していたのだが、それがなんとも目を引くもので、無意識に立ち止まってしまうほど。会話は聞こえない距離にいても、彼女の表情だけでお客様との雰囲気のよさはわかったし、お客様も自然な笑顔で買い物をしていた。
接客業とは奥が深いと思う。困っている人に声がけするのは当然のことだが、タイミン
グを見誤ると不快な思いをさせることもある。
困っているお客様はうまく内容を伝えられない方も多く、接客をしていても解決するまで時間がかかってしまうこともしばしば。
ともすれば、お客様はもちろん販売員も内心疲れが感じてしまったりもするけれど、彼女にはそんな様子はまったくなかった。
そもそも俺の接客はすべてを割り切り、計算されたものだ。どんな表情を作り、どんなタイミングでどういう言葉をかけ、満足していただくか。商品知識はもちろん、流行も敏感に拾って日々効率的に仕事が進むよう、意識してきた。
そんな俺にとって、幸は不思議な存在だった。同時に強く興味を引かれる人だったのだ。
あまりに印象的だったのもあり、その日、日本橋店にいた顔見知りの社員に、さりげなく彼女の話題を切り出した。すると、そこで初めて耳にする。
彼女は『日本橋店の小さなコンシェルジュ』なのだと。
小柄な彼女を称したその呼び名の由来を聞いたとき、驚きつつも納得もした。
幸の他人に対する優しさは、自分の担当下や終業時間に囚われない。
別の日。休憩に入ろうとした際に迷子を見つけた幸は、インフォメーションに連れていった。
俺は九州に向かう朝八時半の便に間に合うようにと、今朝は五時すぎに起きていた。
今週末は地方の店舗を視察して回る予定があり、幸をデートに誘うのは断念した。
それでも昨夜でかなり関係は進んだから、とりあえず満足している。
軽めの朝食をとり、出張の支度をしているとスマートフォンが振動する。俺はネクタイを結ぶ手を止めた。
ついっとディスプレイに指を滑らせると、メッセージが表示される。
【おはようございます。昨日はいろいろとお世話になり、ありがとうございました】
早朝六時台に送信されたメッセージは、幸からのもの。
意外だった。彼女の性格からすると、緊急の用件でない限り、深夜や早朝のメッセージ送信は控えると思われたから。
おそらく『お礼を伝えなければ』『なんて送ろう』などを気にして、時間にまで気が回らなかったのだと推測する。
俺はジッと送られてきた堅苦しい文面を眺める。最後にひとつだけ、笑っている絵文字が添えられているのは、〝恋人〟らしさを出そうとしたのかもしれない。
「はは」
そう想像すると、思わず声に出して笑ってしまった。
目の前のことに真剣に取り組む彼女らしい。スマートフォンと向き合っている姿が浮かぶ。
俺はスマートフォンを手に取り、ソファに腰を沈める。そして、すぐさま彼女へ返信した。
【おはよう。月曜日に顔を見るのが待ち遠しい】
数秒後に既読がつくと、どんな返信が来るかわくわくしている自分がいる。
出かける準備そっちのけでディスプレイを見続けていると、彼女からの返信が来た。
【申し訳ないのですが、社内では業務外のことで話しかけるのはご遠慮ください。じゃないと、仕事に支障をきたす恐れがあるので】
すぐに次のメッセージが届く。
【大変恐縮ですが、まずは内密の方向で……】
ふたつに分けて送られてきたメッセージに目を丸くする。
「手厳しいなあ」
スマートフォンに向かってそうこぼすと、苦笑した。
彼女は俺たちの関係を隠したがっているのはわかった。だけど、その文面にネガティブな印象は一切ない。
俺は新名幸という女性の人柄を知っている。
彼女は決して冷たい性格ではない。むしろ、人情味ある温かな人だと。
彼女を初めて見たのは。四年前。俺が外商時代にそれぞれの店舗の実情を把握するために、日本橋店に訪れたときだった。
身長百五十五センチくらいの、小柄な容姿。そして、落ちついた暗めの茶髪は、後ろでひとつに束ね、髪型にちょっとアレンジを加えている。制服に乱れはなく、パンプスも磨かれていて潔感があり、笑顔が華やかな店員だった。
キッチングッズや日用品のフロアを通過すると、たまたま彼女が視界に入った。
三十代くらいの女性を接客していたのだが、それがなんとも目を引くもので、無意識に立ち止まってしまうほど。会話は聞こえない距離にいても、彼女の表情だけでお客様との雰囲気のよさはわかったし、お客様も自然な笑顔で買い物をしていた。
接客業とは奥が深いと思う。困っている人に声がけするのは当然のことだが、タイミン
グを見誤ると不快な思いをさせることもある。
困っているお客様はうまく内容を伝えられない方も多く、接客をしていても解決するまで時間がかかってしまうこともしばしば。
ともすれば、お客様はもちろん販売員も内心疲れが感じてしまったりもするけれど、彼女にはそんな様子はまったくなかった。
そもそも俺の接客はすべてを割り切り、計算されたものだ。どんな表情を作り、どんなタイミングでどういう言葉をかけ、満足していただくか。商品知識はもちろん、流行も敏感に拾って日々効率的に仕事が進むよう、意識してきた。
そんな俺にとって、幸は不思議な存在だった。同時に強く興味を引かれる人だったのだ。
あまりに印象的だったのもあり、その日、日本橋店にいた顔見知りの社員に、さりげなく彼女の話題を切り出した。すると、そこで初めて耳にする。
彼女は『日本橋店の小さなコンシェルジュ』なのだと。
小柄な彼女を称したその呼び名の由来を聞いたとき、驚きつつも納得もした。
幸の他人に対する優しさは、自分の担当下や終業時間に囚われない。
別の日。休憩に入ろうとした際に迷子を見つけた幸は、インフォメーションに連れていった。