姉の身代わりでお見合いしたら、激甘CEOの執着愛に火がつきました
だけどもうメーカー側は営業終了していて連絡がつかないから、今日のところはメールを送っておいて明日すぐに電話しなきゃ。
これでおおよそ原因の目処と、対処の方向は固まった。
私は事の経緯を須田さんに報告する。須田さんは私を叱責することはしなかったけれど、そのぶん私は自分を責め続けた。
重い気持ちのまま帰路に就いたとき、菱科さんからのメッセージに気がついた。
私はそれをどうしてもすぐに見る気になれず、スマートフォンをバッグの奥底にしまう。
今は菱科さんに会いたくない。合わせる顔がない。
それに、彼に今回のことを話せば、私を注意するのではなく自分の責任とでも言って慰められそう。
歩いている足を止め、ジャケットの胸元をぎゅっと握った。
――違う。今、私の中に渦巻いているのは、仕事に関する感情だけじゃない。
今回のミスで、恋愛と仕事の両立に関する検証は大きくマイナスに傾いた。
以前の私なら、『これ以上の検証は無用。恋人の真似事はもう終わりにしましょう』と切り出していたと思う。
だけど……今の私は、この期に及んで菱科さんとの関係が解消されることに躊躇している。
彼との時間を終わらせたくない。
しかし、現に私は懸念していた事態に陥っている。
不器用な私の手に負えない展開に、下唇を噛みしめた。
【申し訳ありません。昨夜は疲れてすぐ寝てしまいました】
朝起きて菱科さん宛に送ったメッセージ。
昨日のミスの負い目から、よそよそしい返信しかできなかった。
嘘。昨夜はすぐ寝るどころか、ほとんど眠れていない。昨日のミスを引きずって、今日やるべきことを考え続けていたら寝られなかったのだ。
寝不足のひどい顔をどうにかメイクでカバーして、いつもよりも一時間以上早く家を出る。
家にいると落ちつかない。とにかく、一刻も早く会社に着きたかった。
正面玄関が施錠されているため、裏口に回る。警備員に社員証を出して中に入り、エレベーターに乗った。扉を閉めるボタンに手をかけると、直接扉を押さえる手が見えて、ビクッと肩を揺らす。
「間に合った」
「菱科さん……おはようございます」
心臓がバクバクしている。
ほとんどの社員はまだ出社していない。そんな時間にエレベータを強引に開けられただけでも驚きなのに、その人が菱科さんだったなんて……!
私は懸命に平気なふりをして続ける。
「行き先は十階でいいですよね?」
「ああ」
菱科さんの方を見られない。
私はボタン側を向いたまま動かず、最上階である十階のボタンを押す。そのあと、自部署のある八階のボタンを押そうと指で触れかけた。
次の瞬間、背後から手を掴まれる。
菱科さんでエレベーター内の照明を遮られ、私の前には影ができている。
社内で密着されて、いつもならドキドキしていただけだったと思う。でもやっぱり今の私は心の余裕がないから、今日は別の意味で落ちつかなかった。
「ちょっとつき合って」
「すみません。私、急ぎの仕事が」
「知ってるよ」
『知ってる』? なにを、どこまで……。
途端に胸の中がざわつく。
ミスを隠そうとしているわけじゃない。だけど、知られるのは気まずいし落ち込む。
黙り込んでなにも言わずにいると、すぐに十階に到着した。
私は菱科さんに手を引かれる形でCEO室まで連れてこられた。
部屋に入るなり、菱科さんは私の腰を引き寄せて顔を覗き込む。
「昨夜は寝てないな……?」
メイクである程度隠せたと思ったのに、さっそく見透かされるなんて。
寝不足だし昨日の一件でメンタルも不安定だし、うまく取り繕えない。
本音を言うと、会いたくなかった。
私が恋愛よりも仕事を優先してきたことは、もう菱科さんはわかっている。だからこそ、こんな確認ミスの失敗を知られて矜持もボロボロだ。
「会いたくなかったって顔だな」
顎を捕らえられているため、目だけを横に逸らす。
菱科さんなら、本当になんでも見透かしていそうで怖い。
「一応聞いておこう。なぜ俺と顔を合わせたくなかったのか」
菱科さんの口ぶりから、彼は本当にすべてを知っていると悟る。
私は目を合わせず、ぽつりと答えた。
「情けないところを見られたい人なんか……いませんよ」
一から準備したのは自分ではないとはいえ、〝初めての大舞台〟くらいの気持ちで今回の仕事をしていた。
メールは事故みたいな部分はあるけれど、私がもっと慎重になって、もっと準備段階で疑って、念には念を入れて進めていれば防げたことだったと思うから。
悔しさで涙が込み上げてくる。その矢先、ふいに口づけられた。
目を剥いて彼を見上げると、不敵な笑みを浮かべている。
「まあ確かに。しかし、俺たちは今特別な関係だろう? 欲を言えば、どんな君も見せてほしい。ひとりきりで耐えているのなら、なおさら」
これでおおよそ原因の目処と、対処の方向は固まった。
私は事の経緯を須田さんに報告する。須田さんは私を叱責することはしなかったけれど、そのぶん私は自分を責め続けた。
重い気持ちのまま帰路に就いたとき、菱科さんからのメッセージに気がついた。
私はそれをどうしてもすぐに見る気になれず、スマートフォンをバッグの奥底にしまう。
今は菱科さんに会いたくない。合わせる顔がない。
それに、彼に今回のことを話せば、私を注意するのではなく自分の責任とでも言って慰められそう。
歩いている足を止め、ジャケットの胸元をぎゅっと握った。
――違う。今、私の中に渦巻いているのは、仕事に関する感情だけじゃない。
今回のミスで、恋愛と仕事の両立に関する検証は大きくマイナスに傾いた。
以前の私なら、『これ以上の検証は無用。恋人の真似事はもう終わりにしましょう』と切り出していたと思う。
だけど……今の私は、この期に及んで菱科さんとの関係が解消されることに躊躇している。
彼との時間を終わらせたくない。
しかし、現に私は懸念していた事態に陥っている。
不器用な私の手に負えない展開に、下唇を噛みしめた。
【申し訳ありません。昨夜は疲れてすぐ寝てしまいました】
朝起きて菱科さん宛に送ったメッセージ。
昨日のミスの負い目から、よそよそしい返信しかできなかった。
嘘。昨夜はすぐ寝るどころか、ほとんど眠れていない。昨日のミスを引きずって、今日やるべきことを考え続けていたら寝られなかったのだ。
寝不足のひどい顔をどうにかメイクでカバーして、いつもよりも一時間以上早く家を出る。
家にいると落ちつかない。とにかく、一刻も早く会社に着きたかった。
正面玄関が施錠されているため、裏口に回る。警備員に社員証を出して中に入り、エレベーターに乗った。扉を閉めるボタンに手をかけると、直接扉を押さえる手が見えて、ビクッと肩を揺らす。
「間に合った」
「菱科さん……おはようございます」
心臓がバクバクしている。
ほとんどの社員はまだ出社していない。そんな時間にエレベータを強引に開けられただけでも驚きなのに、その人が菱科さんだったなんて……!
私は懸命に平気なふりをして続ける。
「行き先は十階でいいですよね?」
「ああ」
菱科さんの方を見られない。
私はボタン側を向いたまま動かず、最上階である十階のボタンを押す。そのあと、自部署のある八階のボタンを押そうと指で触れかけた。
次の瞬間、背後から手を掴まれる。
菱科さんでエレベーター内の照明を遮られ、私の前には影ができている。
社内で密着されて、いつもならドキドキしていただけだったと思う。でもやっぱり今の私は心の余裕がないから、今日は別の意味で落ちつかなかった。
「ちょっとつき合って」
「すみません。私、急ぎの仕事が」
「知ってるよ」
『知ってる』? なにを、どこまで……。
途端に胸の中がざわつく。
ミスを隠そうとしているわけじゃない。だけど、知られるのは気まずいし落ち込む。
黙り込んでなにも言わずにいると、すぐに十階に到着した。
私は菱科さんに手を引かれる形でCEO室まで連れてこられた。
部屋に入るなり、菱科さんは私の腰を引き寄せて顔を覗き込む。
「昨夜は寝てないな……?」
メイクである程度隠せたと思ったのに、さっそく見透かされるなんて。
寝不足だし昨日の一件でメンタルも不安定だし、うまく取り繕えない。
本音を言うと、会いたくなかった。
私が恋愛よりも仕事を優先してきたことは、もう菱科さんはわかっている。だからこそ、こんな確認ミスの失敗を知られて矜持もボロボロだ。
「会いたくなかったって顔だな」
顎を捕らえられているため、目だけを横に逸らす。
菱科さんなら、本当になんでも見透かしていそうで怖い。
「一応聞いておこう。なぜ俺と顔を合わせたくなかったのか」
菱科さんの口ぶりから、彼は本当にすべてを知っていると悟る。
私は目を合わせず、ぽつりと答えた。
「情けないところを見られたい人なんか……いませんよ」
一から準備したのは自分ではないとはいえ、〝初めての大舞台〟くらいの気持ちで今回の仕事をしていた。
メールは事故みたいな部分はあるけれど、私がもっと慎重になって、もっと準備段階で疑って、念には念を入れて進めていれば防げたことだったと思うから。
悔しさで涙が込み上げてくる。その矢先、ふいに口づけられた。
目を剥いて彼を見上げると、不敵な笑みを浮かべている。
「まあ確かに。しかし、俺たちは今特別な関係だろう? 欲を言えば、どんな君も見せてほしい。ひとりきりで耐えているのなら、なおさら」