姉の身代わりでお見合いしたら、激甘CEOの執着愛に火がつきました
「不確かな関係で未来が拗れるのが不安なら、この関係を確かなものにすればいい。今日、幸もそんなようなことを言っていただろ?」
それは、今日本社の駐車場で誰かに見られたらと心配した流れで私が言ったことだ。
『恋人とは結婚と違いまだ不確定な間柄なので、なにかあった際に周囲にまで気を使わせてしまいかねない』と。
「こんなことを思いたくはないが、確かに『恋人』ではなく『夫婦』と言えば周囲の反応が変わることが想定される。俺が幸に本気なんだ……とね」
菱科さんはそう言うと、私の左手をスッと取る。
「つまり、夫婦になればいい」
彼の瞳が私だけを映し出している。
とても真剣で、情熱的な双眼に――。
「まあ、俺のかねてからの願望でもあるんだけど」
最後のひとことにどぎまぎする。
おもむろに彼の優しい腕に囲われる。少し唇を寄せれば口づけられる至近距離で、愛をささやかれた。
「結婚したい。全力で幸せにする。幸の笑顔が絶えないように、ずっと」
胸がドキドキして止まない。
あきらめていた『恋愛』を、こんなに素敵な相手と一緒に……なんて、どうして想像できるだろうか。
真剣な表情の菱科さんと向き合い、懸命に昂る気持ちをセーブする。
「……そんな大事なことを簡単に決断するのはどうかと。結婚となれば当人たちだけでなく、家族も関わる話になりますし」
そう。一時的な感情で、勢いだけで突き進むのは得策じゃない。仕事にも言えることだ。重要な局面なときほど、落ちついて冷静に判断しなければ損失に繋がる。
それなのに、菱科さんは緊張感なく「ふっ」と笑いだす。
「ど、どうして笑うんですか」
「悪い。いやでも、幸が面白いことを言うから」
「面白い? どこがです?」
困惑する私を見て、さらに可笑しそうに目を細めた。
「結婚は家族の問題。それは同意しよう。だが、その問題はすでに概ねクリアしているだろ?」
不甲斐なくも彼の説明がすぐに理解できず、首を捻る。
菱科さんはため息をつくでもなく、丁寧に説明してくれた。
「俺たちは一度、家名のもと縁談という形で顔を合わせている。つまり、その時点でよほどの事情がなければ両家とも承諾しているようなもの」
はっとした。指摘されると確かにそうだ。
「おっしゃる通りでした……でも。そうだとしても、簡単に結婚するだなんて言っちゃだめですよ」
菱科さんは社会的立場を顧みて慎重になったほうがいい立場にいるわけだし。
すると、菱科さんが口元を隠すように片手を添えてぽつりとこぼす。
「それは一理あるな……。今、猛省してる」
私の意見に同調してくれてほっとする反面、彼との格差は現実なのだと突きつけられ、微妙な心持ちになった。
知らないうちに俯いていたらしい。菱科さんが私の頬を両手で包み込み、視線を上げさせられる。
「もっと幸の記憶に残るような演出でプロポーズをすべきだった。もう一度、チャンスがほしい。日を改めて求婚する」
チャンス……日を改めてって……。そういう意味合いじゃなかったのに。
あまりにストレートな好意を向けられ、あたふたするばかり。
すると、菱科さんはパッと手を離し、ばつが悪そうに軽く瞼を伏せた。
「悪い。そうじゃないよな。なによりも幸の気持ちを大切にするべきだった」
どこまでも優しい彼の手を、今度は私が捕まえる。
「……いえ。菱科さんはこれまでずっと私を大切にしてくださってます。ありがとうございます」
お互いにゆっくり視線を上げていき、ぱちっと目が合った途端、笑みがこぼれる。
「幸、明日のお祖母様の退院はご家族みんなで行くのかな?」
「いえ。両親ともどうしても外せない仕事が午前中あるみたいで。姉も国外ですし。でも運よく私が行けることになったのでよかったです」
「だったら、俺が車を出すよ」
「え! それは申し訳ないですから」
「元気になられた顔を少し見たいんだ。縁談の話は、お祖母様の体調と予定を伺ってからにしよう。明日は自宅へ送り届けたらすぐお暇するから、心配しないで」
どこまでも先回りする菱科さんに、私なんかが到底敵うはずもない。
結局、明日の午前中に病院で待ち合わせすることとなった。
私はすっかり冷めてしまった紅茶を、申し訳なく思いながらいただく。その後、自宅アパートまで送ってもらうことになり、玄関でパンプスに足を通した。
ドアノブに手を伸ばした瞬間、手を重ねられる。
「幸」
耳に心地いい声で自分の名前を呼ばれると、途端に頬が熱くなるのを感じる。
おもむろに振り返ると、ドアと彼に挟まれて身動きが取れないまま、甘いキスを注がれた。
それは、今日本社の駐車場で誰かに見られたらと心配した流れで私が言ったことだ。
『恋人とは結婚と違いまだ不確定な間柄なので、なにかあった際に周囲にまで気を使わせてしまいかねない』と。
「こんなことを思いたくはないが、確かに『恋人』ではなく『夫婦』と言えば周囲の反応が変わることが想定される。俺が幸に本気なんだ……とね」
菱科さんはそう言うと、私の左手をスッと取る。
「つまり、夫婦になればいい」
彼の瞳が私だけを映し出している。
とても真剣で、情熱的な双眼に――。
「まあ、俺のかねてからの願望でもあるんだけど」
最後のひとことにどぎまぎする。
おもむろに彼の優しい腕に囲われる。少し唇を寄せれば口づけられる至近距離で、愛をささやかれた。
「結婚したい。全力で幸せにする。幸の笑顔が絶えないように、ずっと」
胸がドキドキして止まない。
あきらめていた『恋愛』を、こんなに素敵な相手と一緒に……なんて、どうして想像できるだろうか。
真剣な表情の菱科さんと向き合い、懸命に昂る気持ちをセーブする。
「……そんな大事なことを簡単に決断するのはどうかと。結婚となれば当人たちだけでなく、家族も関わる話になりますし」
そう。一時的な感情で、勢いだけで突き進むのは得策じゃない。仕事にも言えることだ。重要な局面なときほど、落ちついて冷静に判断しなければ損失に繋がる。
それなのに、菱科さんは緊張感なく「ふっ」と笑いだす。
「ど、どうして笑うんですか」
「悪い。いやでも、幸が面白いことを言うから」
「面白い? どこがです?」
困惑する私を見て、さらに可笑しそうに目を細めた。
「結婚は家族の問題。それは同意しよう。だが、その問題はすでに概ねクリアしているだろ?」
不甲斐なくも彼の説明がすぐに理解できず、首を捻る。
菱科さんはため息をつくでもなく、丁寧に説明してくれた。
「俺たちは一度、家名のもと縁談という形で顔を合わせている。つまり、その時点でよほどの事情がなければ両家とも承諾しているようなもの」
はっとした。指摘されると確かにそうだ。
「おっしゃる通りでした……でも。そうだとしても、簡単に結婚するだなんて言っちゃだめですよ」
菱科さんは社会的立場を顧みて慎重になったほうがいい立場にいるわけだし。
すると、菱科さんが口元を隠すように片手を添えてぽつりとこぼす。
「それは一理あるな……。今、猛省してる」
私の意見に同調してくれてほっとする反面、彼との格差は現実なのだと突きつけられ、微妙な心持ちになった。
知らないうちに俯いていたらしい。菱科さんが私の頬を両手で包み込み、視線を上げさせられる。
「もっと幸の記憶に残るような演出でプロポーズをすべきだった。もう一度、チャンスがほしい。日を改めて求婚する」
チャンス……日を改めてって……。そういう意味合いじゃなかったのに。
あまりにストレートな好意を向けられ、あたふたするばかり。
すると、菱科さんはパッと手を離し、ばつが悪そうに軽く瞼を伏せた。
「悪い。そうじゃないよな。なによりも幸の気持ちを大切にするべきだった」
どこまでも優しい彼の手を、今度は私が捕まえる。
「……いえ。菱科さんはこれまでずっと私を大切にしてくださってます。ありがとうございます」
お互いにゆっくり視線を上げていき、ぱちっと目が合った途端、笑みがこぼれる。
「幸、明日のお祖母様の退院はご家族みんなで行くのかな?」
「いえ。両親ともどうしても外せない仕事が午前中あるみたいで。姉も国外ですし。でも運よく私が行けることになったのでよかったです」
「だったら、俺が車を出すよ」
「え! それは申し訳ないですから」
「元気になられた顔を少し見たいんだ。縁談の話は、お祖母様の体調と予定を伺ってからにしよう。明日は自宅へ送り届けたらすぐお暇するから、心配しないで」
どこまでも先回りする菱科さんに、私なんかが到底敵うはずもない。
結局、明日の午前中に病院で待ち合わせすることとなった。
私はすっかり冷めてしまった紅茶を、申し訳なく思いながらいただく。その後、自宅アパートまで送ってもらうことになり、玄関でパンプスに足を通した。
ドアノブに手を伸ばした瞬間、手を重ねられる。
「幸」
耳に心地いい声で自分の名前を呼ばれると、途端に頬が熱くなるのを感じる。
おもむろに振り返ると、ドアと彼に挟まれて身動きが取れないまま、甘いキスを注がれた。