姉の身代わりでお見合いしたら、激甘CEOの執着愛に火がつきました
真相
翌日は病院に午前九時頃到着した。
退院までの手続きはスムーズで、菱科さんの車で実家に送り届けてもらったのは午前十時過ぎ。
「入院でお疲れでしょう。私はまた日を改めて伺いますね」
「そんな寂しいこと言わないで。元気になったから退院したんですよ。まあ、おもてなしはできないけれど、さっちゃんがいてくれるから大丈夫よね?」
玄関先まで祖母に手を貸して支えてくれていた菱科さんに、祖母が笑顔でそう言った。
すごくうれしそうな祖母を見たら、希望通りにしてあげたいと思ってしまう。
「うん。大丈夫だよ」
祖母は菱科さんを見てからずっと、ニコニコ顔だ。こんなところでも菱科さんのすごさというか、人当たりのよさを実感する。
私の実家は五年くらい前に改築し、二世帯住宅になっている。
一階のリビングには、祖母用のひとりがけソファ。祖母のお気に入りで定位置だ。
祖母は菱科さんに連れ添ってもらい、久方ぶりに愛用のソファに腰を下ろした。
私はお茶を淹れるためにリビングの隣にあるキッチンに向かう。お茶を用意しながら背中越しに、祖母と菱科さんの会話を聞いていた。
「まさかふたり揃って会いに来てくれるなんて。京くんの粘り勝ち?」
祖母の言葉に、思わず手を止め後ろを振り返る。菱科さんは、祖母ににっこりと笑顔を返すだけだった。
「まあ~! 本当に? うれしいわ。今日はおめでたい日ね」
祖母がうれしそうな声をあげるところに、湯飲みを乗せたお盆を持っていく。
「あの……お祖母ちゃんと菱科さんのご家族って、どんな繋がりが?」
「あら? 聞いていないの?」
座卓の前で膝を折り、テーブルにお茶を出しつつも意識は祖母との会話に集中する。
「詳しい話はまだ……」
「そうなの。そうねえ。知り合ったのは、幸のお祖父さんの仕事がきっかけなのよ」
さらに補足してくれたのは菱科さんだ。
「関野ふみ子さんのご主人が久東百貨店の社外取締役だったらしい。けれど、ご主人が早逝されて、その後ふみ子さんが代わりを」
「ええっ!」
自然と大きな声が出てしまった。
だって、祖母がそんな役目を? もっと言えば、祖父のことも詳しく知らなかったから驚きを隠せない。
だけど、それなら祖母が久東百貨店を贔屓にしていたことに納得がいくかも。
「数年前に退任されてはいるものの、俺の祖父や父とはときどき連絡を取り合う仲だと聞いたよ」
菱科さんの説明に、目を大きく見開くだけだ。
すると、今度は祖母が私が淹れたお茶をすすったあとに、話し出す。
「今回の入院がこれまで以上に長引いちゃって、久我谷会長にちょっと弱音を吐いちゃったのよね。残りわずかの人生を思ったときに、どうしてもさっちゃんのことが気にかかっちゃって、そんな話もしちゃったの」
「それで、祖父が俺にそれとなく『知り合いのお孫さんに会ってみないか』と持ちかけられて」
あとは昨夜教えた通り、とでもいうような目を向けられる。
「お祖母ちゃん、それって本当に初めから私を紹介しようとしてた? 來未ちゃんじゃなくて?」
「來未ちゃん? それはないわ。私、來未ちゃんともときどき話をするの。來未ちゃんは縁談の必要はなさそうだったもの」
「でもお父さんは、私でもいいようだって言うから」
私の発言に、今度は祖母が目を丸くさせた。
「まあ。さっちゃんのパパがそんなふうに言っていたの? いつも気忙しくて話半分で聞くからそういうことになるのよねえ。さっちゃんのママと結婚する頃から変わらないのよ~」
祖母は悩ましげに片手を頬に添えて嘆いた。
気忙しく話半分で、とか……まるで私。そういう部分は父譲りなのだと改めて実感すると同時に、自分が注意を受けている気持ちになって耳が痛くなる。
「ああ、でも初めは『お見合いとかどう思う?』って聞いただけだから、もしかしたらそのときすでに、來未ちゃんだと思い込んだのかもしれないわね」
祖母は宙を見つめ、思い出しながら教えてくれた。
呆気に取られつつ、真相を整理する。
要するに、もともと私にと思った祖母の計らいが始まりだったってこと……。
「誤解は解けた?」
足を揃えて座る菱科さんは、穏やかな表情で尋ねてきた。
「はい……。つまり私の父の落ちつきのない性格からの早とちりで、私まで誤解をしていたという話ですね」
私は愕然として、肩を落としながら答えた。
「私はさっちゃんに怒られると思ったから、強引には進めるつもりはなかったんだけどね。でも、京くんが何度も熱心にお願いしてくるものだから、つい。でもふたりがうまくいっているみたいで、自分のことみたいにうれしいわ」
祖母の喜びの声を聞き、菱科さんをチラリと見る。
退院までの手続きはスムーズで、菱科さんの車で実家に送り届けてもらったのは午前十時過ぎ。
「入院でお疲れでしょう。私はまた日を改めて伺いますね」
「そんな寂しいこと言わないで。元気になったから退院したんですよ。まあ、おもてなしはできないけれど、さっちゃんがいてくれるから大丈夫よね?」
玄関先まで祖母に手を貸して支えてくれていた菱科さんに、祖母が笑顔でそう言った。
すごくうれしそうな祖母を見たら、希望通りにしてあげたいと思ってしまう。
「うん。大丈夫だよ」
祖母は菱科さんを見てからずっと、ニコニコ顔だ。こんなところでも菱科さんのすごさというか、人当たりのよさを実感する。
私の実家は五年くらい前に改築し、二世帯住宅になっている。
一階のリビングには、祖母用のひとりがけソファ。祖母のお気に入りで定位置だ。
祖母は菱科さんに連れ添ってもらい、久方ぶりに愛用のソファに腰を下ろした。
私はお茶を淹れるためにリビングの隣にあるキッチンに向かう。お茶を用意しながら背中越しに、祖母と菱科さんの会話を聞いていた。
「まさかふたり揃って会いに来てくれるなんて。京くんの粘り勝ち?」
祖母の言葉に、思わず手を止め後ろを振り返る。菱科さんは、祖母ににっこりと笑顔を返すだけだった。
「まあ~! 本当に? うれしいわ。今日はおめでたい日ね」
祖母がうれしそうな声をあげるところに、湯飲みを乗せたお盆を持っていく。
「あの……お祖母ちゃんと菱科さんのご家族って、どんな繋がりが?」
「あら? 聞いていないの?」
座卓の前で膝を折り、テーブルにお茶を出しつつも意識は祖母との会話に集中する。
「詳しい話はまだ……」
「そうなの。そうねえ。知り合ったのは、幸のお祖父さんの仕事がきっかけなのよ」
さらに補足してくれたのは菱科さんだ。
「関野ふみ子さんのご主人が久東百貨店の社外取締役だったらしい。けれど、ご主人が早逝されて、その後ふみ子さんが代わりを」
「ええっ!」
自然と大きな声が出てしまった。
だって、祖母がそんな役目を? もっと言えば、祖父のことも詳しく知らなかったから驚きを隠せない。
だけど、それなら祖母が久東百貨店を贔屓にしていたことに納得がいくかも。
「数年前に退任されてはいるものの、俺の祖父や父とはときどき連絡を取り合う仲だと聞いたよ」
菱科さんの説明に、目を大きく見開くだけだ。
すると、今度は祖母が私が淹れたお茶をすすったあとに、話し出す。
「今回の入院がこれまで以上に長引いちゃって、久我谷会長にちょっと弱音を吐いちゃったのよね。残りわずかの人生を思ったときに、どうしてもさっちゃんのことが気にかかっちゃって、そんな話もしちゃったの」
「それで、祖父が俺にそれとなく『知り合いのお孫さんに会ってみないか』と持ちかけられて」
あとは昨夜教えた通り、とでもいうような目を向けられる。
「お祖母ちゃん、それって本当に初めから私を紹介しようとしてた? 來未ちゃんじゃなくて?」
「來未ちゃん? それはないわ。私、來未ちゃんともときどき話をするの。來未ちゃんは縁談の必要はなさそうだったもの」
「でもお父さんは、私でもいいようだって言うから」
私の発言に、今度は祖母が目を丸くさせた。
「まあ。さっちゃんのパパがそんなふうに言っていたの? いつも気忙しくて話半分で聞くからそういうことになるのよねえ。さっちゃんのママと結婚する頃から変わらないのよ~」
祖母は悩ましげに片手を頬に添えて嘆いた。
気忙しく話半分で、とか……まるで私。そういう部分は父譲りなのだと改めて実感すると同時に、自分が注意を受けている気持ちになって耳が痛くなる。
「ああ、でも初めは『お見合いとかどう思う?』って聞いただけだから、もしかしたらそのときすでに、來未ちゃんだと思い込んだのかもしれないわね」
祖母は宙を見つめ、思い出しながら教えてくれた。
呆気に取られつつ、真相を整理する。
要するに、もともと私にと思った祖母の計らいが始まりだったってこと……。
「誤解は解けた?」
足を揃えて座る菱科さんは、穏やかな表情で尋ねてきた。
「はい……。つまり私の父の落ちつきのない性格からの早とちりで、私まで誤解をしていたという話ですね」
私は愕然として、肩を落としながら答えた。
「私はさっちゃんに怒られると思ったから、強引には進めるつもりはなかったんだけどね。でも、京くんが何度も熱心にお願いしてくるものだから、つい。でもふたりがうまくいっているみたいで、自分のことみたいにうれしいわ」
祖母の喜びの声を聞き、菱科さんをチラリと見る。