姉の身代わりでお見合いしたら、激甘CEOの執着愛に火がつきました
あの話し方なら、久東百貨店を選んだ理由に、少なからず私も含まれてはいる気になってしまう。……いや。考えすぎかも。だって菱科さん自身の目標を持っている。
『〝自分の理想〟じゃなく、〝お客様の理想〟を代名詞にできるような百貨店ブランド目指してる』って、目を輝かせてそう言っていたもの。
菱科さんの思いを確信した矢先、鋭い言葉を投げつけられる。
「あなたは彼になにを与えられるの?」
美有さんは険しい顔つきのまま、黙って私の答えを待っている。
私は臆することなく美有さんと対峙した。
少し前なら、美有さんの言葉を鵜呑みにし、傷つくだけだったかもしれない。しまいには、遠慮して菱科さんから離れる選択をした可能性もある。
でも今は違う。彼が何度も誠実に、熱心に、気持ちを伝えてくれていたから。自分でも驚くほど、気持ちは揺らがない。
きっと、私が考える『菱科さんにあげられるもの』は、美有さんにとっては無価値なのだろう。
彼女をまっすぐ見ていた、そのとき――。
「私の可愛い妹になにか御用ですか?」
建物の角からやってきたのは、姉の來未ちゃんだ。
美有さんは後ろを振り返り、ぽつりとつぶやく。
「妹……」
初めは驚いて戸惑っていた美有さんだったけれど、さっき私が『姉の家に』と説明していたからか、すんなり理解できていた様子だった。
逆に私のほうがこんなタイミングで姉と遭遇したことに動揺する。
「來未ちゃん! どうして?」
美有さんに負けず劣らずの抜群のスタイルを持つ姉は、久々に会ってもやっぱり変わりない。
ノーメイクでもはっきりとした目鼻立ち。すらりとした長身の姉は、親戚からもよく『似てない姉妹だね』と言われてきた。
私は小さな頃から姉が大好きだったから、そんなふうに言われてもなんとも思わなかったけれど。
「幸から最寄り駅に着いたって連絡来たわりに、ちょっと遅い気がして」
美有さんの前でも特段取り繕いもせず、いつも通りの雰囲気の姉を前にするとなんだか気が抜ける。さっきまで緊張感の中にいたから、どう振舞っていいかわからなくなった。
すると、姉のほうが先にスイッチが入ったみたい。上品な笑みを浮かべながら聞いてくる。
「それで、こちらの方は? ちょっと会話を聞いてしまったけど、お友達――ではないのよね?」
聞かれてたんだ。どのあたりを聞かれていたんだろう。
美有さんもいる手前、どこまで説明すべきか考えあぐねる。その間に美有さんが姉に名刺を差し出した。
「私はこういうものです」
姉は両手で受け取り、名刺を見る。
「P.M.スエヒロ……ご立派な企業にお勤めなのですね。私は国内の航空会社でCAをしております、新名來未と申します。この子の姉です。申し訳ありません。名刺は持ち歩いていなくて」
「いえ。お気になさらずに」
「それで、妹とはどのようなご関係で?」
にっこりと笑いかけながら質問する姉を見て、無意識に肩を竦める。
長年妹をしているから私にはわかる。
今の姉の笑顔は……友好的なものじゃない。警戒し、いつでも臨戦態勢に入れるようにしているときの笑顔だ。
ハラハラする私をよそに、美有さんはさらりと返す。
「以前お会いしたことがあるんです。彼女が私の知り合いと一緒にいたときに、偶然」
「共通の知り合いがいるということですか?」
「そうなりますね。今日もたまたま」
その『知り合い』の正体を、美有さんから説明されるとちょっとややこしくなりそう。できれば姉には自分から説明して紹介したいところ。
そう思ってはいても、美有さんが流暢に話を続けるから入り込む隙がない。
「ちょうどいい機会だと思ったので少し助言を差し上げていたんです。妹さんが私のパートナーと特別親しくしているようだったので、深く傷つく前に考え直したほうがいいのでは?と」
「え……?」
姉が怪訝な顔でつぶやくと、美有さんが私に向かって意気揚々と話し出す。
「彼の住むマンションには、キッズルームがあったり防音対策がなされていたりするのよね。リビングも広々としていて、子育てを視野に入れて購入する人が多いの」
美有さんの発言に愕然とする。
心臓がバクバク鳴って、急に冷や汗まで流れてくる。
だって……確かに彼女が説明する内容は、菱科さんのマンションと一致するから。
美有さんはニッと口の端を上げ、私に一歩近づく。
「彼のマンション、私が選んだのよ。ここまで言えば、意味わかるわよね?」
「幸……?」
姉が不穏そうに私を呼ぶ。
私はなんとか冷静さを呼び戻し、姉に向かって首を横に振った。
落ちついて考えて、菱科さんと美有さんどちらの言葉を信用するかといえば、迷う余地なく菱科さんに決まっている。
ただ、確かに私は菱科さんと釣り合うような肩書きもなく、不安がないかと言われたら『ない』と断言できない。
『〝自分の理想〟じゃなく、〝お客様の理想〟を代名詞にできるような百貨店ブランド目指してる』って、目を輝かせてそう言っていたもの。
菱科さんの思いを確信した矢先、鋭い言葉を投げつけられる。
「あなたは彼になにを与えられるの?」
美有さんは険しい顔つきのまま、黙って私の答えを待っている。
私は臆することなく美有さんと対峙した。
少し前なら、美有さんの言葉を鵜呑みにし、傷つくだけだったかもしれない。しまいには、遠慮して菱科さんから離れる選択をした可能性もある。
でも今は違う。彼が何度も誠実に、熱心に、気持ちを伝えてくれていたから。自分でも驚くほど、気持ちは揺らがない。
きっと、私が考える『菱科さんにあげられるもの』は、美有さんにとっては無価値なのだろう。
彼女をまっすぐ見ていた、そのとき――。
「私の可愛い妹になにか御用ですか?」
建物の角からやってきたのは、姉の來未ちゃんだ。
美有さんは後ろを振り返り、ぽつりとつぶやく。
「妹……」
初めは驚いて戸惑っていた美有さんだったけれど、さっき私が『姉の家に』と説明していたからか、すんなり理解できていた様子だった。
逆に私のほうがこんなタイミングで姉と遭遇したことに動揺する。
「來未ちゃん! どうして?」
美有さんに負けず劣らずの抜群のスタイルを持つ姉は、久々に会ってもやっぱり変わりない。
ノーメイクでもはっきりとした目鼻立ち。すらりとした長身の姉は、親戚からもよく『似てない姉妹だね』と言われてきた。
私は小さな頃から姉が大好きだったから、そんなふうに言われてもなんとも思わなかったけれど。
「幸から最寄り駅に着いたって連絡来たわりに、ちょっと遅い気がして」
美有さんの前でも特段取り繕いもせず、いつも通りの雰囲気の姉を前にするとなんだか気が抜ける。さっきまで緊張感の中にいたから、どう振舞っていいかわからなくなった。
すると、姉のほうが先にスイッチが入ったみたい。上品な笑みを浮かべながら聞いてくる。
「それで、こちらの方は? ちょっと会話を聞いてしまったけど、お友達――ではないのよね?」
聞かれてたんだ。どのあたりを聞かれていたんだろう。
美有さんもいる手前、どこまで説明すべきか考えあぐねる。その間に美有さんが姉に名刺を差し出した。
「私はこういうものです」
姉は両手で受け取り、名刺を見る。
「P.M.スエヒロ……ご立派な企業にお勤めなのですね。私は国内の航空会社でCAをしております、新名來未と申します。この子の姉です。申し訳ありません。名刺は持ち歩いていなくて」
「いえ。お気になさらずに」
「それで、妹とはどのようなご関係で?」
にっこりと笑いかけながら質問する姉を見て、無意識に肩を竦める。
長年妹をしているから私にはわかる。
今の姉の笑顔は……友好的なものじゃない。警戒し、いつでも臨戦態勢に入れるようにしているときの笑顔だ。
ハラハラする私をよそに、美有さんはさらりと返す。
「以前お会いしたことがあるんです。彼女が私の知り合いと一緒にいたときに、偶然」
「共通の知り合いがいるということですか?」
「そうなりますね。今日もたまたま」
その『知り合い』の正体を、美有さんから説明されるとちょっとややこしくなりそう。できれば姉には自分から説明して紹介したいところ。
そう思ってはいても、美有さんが流暢に話を続けるから入り込む隙がない。
「ちょうどいい機会だと思ったので少し助言を差し上げていたんです。妹さんが私のパートナーと特別親しくしているようだったので、深く傷つく前に考え直したほうがいいのでは?と」
「え……?」
姉が怪訝な顔でつぶやくと、美有さんが私に向かって意気揚々と話し出す。
「彼の住むマンションには、キッズルームがあったり防音対策がなされていたりするのよね。リビングも広々としていて、子育てを視野に入れて購入する人が多いの」
美有さんの発言に愕然とする。
心臓がバクバク鳴って、急に冷や汗まで流れてくる。
だって……確かに彼女が説明する内容は、菱科さんのマンションと一致するから。
美有さんはニッと口の端を上げ、私に一歩近づく。
「彼のマンション、私が選んだのよ。ここまで言えば、意味わかるわよね?」
「幸……?」
姉が不穏そうに私を呼ぶ。
私はなんとか冷静さを呼び戻し、姉に向かって首を横に振った。
落ちついて考えて、菱科さんと美有さんどちらの言葉を信用するかといえば、迷う余地なく菱科さんに決まっている。
ただ、確かに私は菱科さんと釣り合うような肩書きもなく、不安がないかと言われたら『ない』と断言できない。