姉の身代わりでお見合いしたら、激甘CEOの執着愛に火がつきました
「集中しすぎて、か。なるほど。つまり、食事以外のなにかに気を向けていたという話かな。それは興味深い」
そう言って再びくすくすと笑いだす彼を見て、慌てて答える。
「あの、まったく別のことを考えていたわけではなく! どんな話をしたらいいかと考えていただけで」
「そうだったんだ。料理が合わなかったか、それとも具合でも悪くなったのかと心配したから、そうじゃなくて安心した」
菱科さんがほっとした様子で言うものだから、私はますます居た堪れなくなる。
「すみません。お礼もできずに気を使わせるだけで……というか、そう。お礼を!」
「そんなこと気にしないでいいよ。大体、この時間がお礼って話になってただろ?」
彼の声や表情からは、お世辞や気遣いで言ってくれている雰囲気ではないことは伝わってくる。
だとしても、これが本当にお礼になっているのかどうか。
彼は海外慣れしている。有意義に過ごす方法はいくらでもありそうだもの。
モヤモヤとしながら食事を進めていると、菱科さんは穏やかな口調で言う。
「俺は君とこうして過ごすだけで楽しいんだ。でも、会話に困っているというなら、幸さんの熱中しているものとか、そういう話を聞かせて」
「私が熱中しているもの?」
私がつぶやくと、彼はニコリとして頷く。
今、私が夢中になっていることといえば……。
「仕事、ですかね。面白味のない答えだとはわかっていますが」
「仕事? そうなんだ。いいね、ぜひ聞かせて」
菱科さんは嫌な顔ひとつせず、肯定してくれるものだから、私は話を続ける。
「私は商品の買いつけや出店の交渉を行う仕事をしているんです。ほかにも販売戦略などにも関わったり」
「ああ、MD兼バイヤーだね」
「そうです。憧れていたポジションに、ようやく就けたので頑張りたくて。今回は出張で日本から来ているんです」
私は初め、久東百貨店に就職できれば満足だと思っていた。私の面倒を見てくれていた祖母がよく連れて行ってくれた、久東百貨店に。
だけど、いろんなフロアで販売員として携わっていくうち、商品管理部の仕事に興味を抱くようになった。
何年も販売員として店頭に立ち、『こんな商品もあるの』『こんなものを探していたの』と喜びの声を受けてきた。そんなふうに感じてもらえる、感じさせる商品を探し、選び、時には商品を作る仕事に意識が向くのは自然なことだった。
そして、いざMD兼バイヤーとなったら、この仕事がなかなか難しい。
単純に世間で人気があるから、売れているからという視点だけで商品を選ぶだけではだめ。うちにはうちのお客様がいて、常にそのお客様と我が百貨店ブランドを意識するようにと教わったばかり。
そういうことを含め、やっぱりやりがいがあってこれからもっと頑張りたいと思っているところだ。
熱い思いを自分の胸の内で再確認していると、菱科さんの視線に気づき顔を上げる。
彼は、まるで私しか見えていないのではないかと錯覚させるほど、まっすぐにこちらを見ていた。
さらに、微笑ましく思ってくれているようなやさしい表情をしていて、なんだか気恥ずかしくなる。
「えっと、そちらもお仕事でこちらに?」
動揺をごまかすべく、こちらからも似たような質問を投げかけた。
「そう。海外赴任も三年くらいだったかな」
彼はさらりと答えたのち、プレートのお肉を平らげた。
海外赴任かあ。どんな仕事をしているんだろう? もう少し踏み込んで聞いてもいいものなのかな? それとも、あまり深堀りするのは失礼になるだろうか。
ふと、姉が頭に浮かんだ。
四歳年上の姉は、私と違い、街を歩けばみんな振り返るような美人。CAという華やかな職も相まって、男性からのアプローチが絶えないのを知っている。
そんな姉が、初対面の異性からいろんな質問をされることが鬱陶しいと話していたのを顧みると、容姿端麗な彼もまた同じような気持ちなのではと思った。
ひとり心の中で勝手に分析して、会話が途切れる。
販売員のときに培った会話術はどこへ……。接客や仕事中ではない状況下だと、途端に応用力がなくなるなんて。
内心ため息をついていると、彼が間を繋ぐ。
「いつ帰る予定なの?」
「明日です。最終日に見本市に行ってから、その足で空港へ」
「そう。忙しそうだね」
「確かに、海外出張もそう頻繁には組めないらしくて、出張となれば短い期間にぎゅっと予定を詰め込むみたいなんですが。でも私、毎回刺激と学びがあって、楽しいんです」
すると、彼はふいに頬杖をつき、口元に笑みを浮かべる。
「いいね。だけど、あまり仕事にのめり込んでしまうと――」
その言葉の先を予測して、心の扉をそっと閉じる。
そう言って再びくすくすと笑いだす彼を見て、慌てて答える。
「あの、まったく別のことを考えていたわけではなく! どんな話をしたらいいかと考えていただけで」
「そうだったんだ。料理が合わなかったか、それとも具合でも悪くなったのかと心配したから、そうじゃなくて安心した」
菱科さんがほっとした様子で言うものだから、私はますます居た堪れなくなる。
「すみません。お礼もできずに気を使わせるだけで……というか、そう。お礼を!」
「そんなこと気にしないでいいよ。大体、この時間がお礼って話になってただろ?」
彼の声や表情からは、お世辞や気遣いで言ってくれている雰囲気ではないことは伝わってくる。
だとしても、これが本当にお礼になっているのかどうか。
彼は海外慣れしている。有意義に過ごす方法はいくらでもありそうだもの。
モヤモヤとしながら食事を進めていると、菱科さんは穏やかな口調で言う。
「俺は君とこうして過ごすだけで楽しいんだ。でも、会話に困っているというなら、幸さんの熱中しているものとか、そういう話を聞かせて」
「私が熱中しているもの?」
私がつぶやくと、彼はニコリとして頷く。
今、私が夢中になっていることといえば……。
「仕事、ですかね。面白味のない答えだとはわかっていますが」
「仕事? そうなんだ。いいね、ぜひ聞かせて」
菱科さんは嫌な顔ひとつせず、肯定してくれるものだから、私は話を続ける。
「私は商品の買いつけや出店の交渉を行う仕事をしているんです。ほかにも販売戦略などにも関わったり」
「ああ、MD兼バイヤーだね」
「そうです。憧れていたポジションに、ようやく就けたので頑張りたくて。今回は出張で日本から来ているんです」
私は初め、久東百貨店に就職できれば満足だと思っていた。私の面倒を見てくれていた祖母がよく連れて行ってくれた、久東百貨店に。
だけど、いろんなフロアで販売員として携わっていくうち、商品管理部の仕事に興味を抱くようになった。
何年も販売員として店頭に立ち、『こんな商品もあるの』『こんなものを探していたの』と喜びの声を受けてきた。そんなふうに感じてもらえる、感じさせる商品を探し、選び、時には商品を作る仕事に意識が向くのは自然なことだった。
そして、いざMD兼バイヤーとなったら、この仕事がなかなか難しい。
単純に世間で人気があるから、売れているからという視点だけで商品を選ぶだけではだめ。うちにはうちのお客様がいて、常にそのお客様と我が百貨店ブランドを意識するようにと教わったばかり。
そういうことを含め、やっぱりやりがいがあってこれからもっと頑張りたいと思っているところだ。
熱い思いを自分の胸の内で再確認していると、菱科さんの視線に気づき顔を上げる。
彼は、まるで私しか見えていないのではないかと錯覚させるほど、まっすぐにこちらを見ていた。
さらに、微笑ましく思ってくれているようなやさしい表情をしていて、なんだか気恥ずかしくなる。
「えっと、そちらもお仕事でこちらに?」
動揺をごまかすべく、こちらからも似たような質問を投げかけた。
「そう。海外赴任も三年くらいだったかな」
彼はさらりと答えたのち、プレートのお肉を平らげた。
海外赴任かあ。どんな仕事をしているんだろう? もう少し踏み込んで聞いてもいいものなのかな? それとも、あまり深堀りするのは失礼になるだろうか。
ふと、姉が頭に浮かんだ。
四歳年上の姉は、私と違い、街を歩けばみんな振り返るような美人。CAという華やかな職も相まって、男性からのアプローチが絶えないのを知っている。
そんな姉が、初対面の異性からいろんな質問をされることが鬱陶しいと話していたのを顧みると、容姿端麗な彼もまた同じような気持ちなのではと思った。
ひとり心の中で勝手に分析して、会話が途切れる。
販売員のときに培った会話術はどこへ……。接客や仕事中ではない状況下だと、途端に応用力がなくなるなんて。
内心ため息をついていると、彼が間を繋ぐ。
「いつ帰る予定なの?」
「明日です。最終日に見本市に行ってから、その足で空港へ」
「そう。忙しそうだね」
「確かに、海外出張もそう頻繁には組めないらしくて、出張となれば短い期間にぎゅっと予定を詰め込むみたいなんですが。でも私、毎回刺激と学びがあって、楽しいんです」
すると、彼はふいに頬杖をつき、口元に笑みを浮かべる。
「いいね。だけど、あまり仕事にのめり込んでしまうと――」
その言葉の先を予測して、心の扉をそっと閉じる。