天使くん、その羽は使えません (短)
「駐車場の中をグルグル走って。俺が手を叩いたタイミングで、逆方向に走って。足の筋肉を均等につけないとね」
(ジムのスタッフみたいな事を言ってるよ天使くん!)
だけど天使くんは、ジムのスタッフみたいに優しくはなかった。
「ほら下向かない」
「足がもつれてるよ」
「常に一定の呼吸を意識して」
もともと持久走が苦手な私。しかも、さっき部屋の大片付けをしたから、疲労が溜まるのが早い。
「はぁ、はぁ……っ!」
息が細々となっていくのが分かる。喉をゆっくりと、誰かに締められてるみたい。
「ヒュー、ヒュー……!」
私の呼吸の音が、少しづつ変わってきた。まるで笛の音。その音は、私に息苦しさをもたらす。
(あ、もう……ダメだ)
諦めたと同時に、私はラケットバッグに倒れ込む。正確には、ラケットバッグの近くへ座り、ある物を取り出した。