天使くん、その羽は使えません (短)
パンッ

「アウト」

(また飛びすぎた!さっきはネットすら超えなかったし!)


大きく遠く飛ばすクリアも、相手のコートギリギリに落とすヘアピンも、今日の私は全然ダメだった。

最初の数点を奪われるのは、場所に慣れるために仕方ない失点――そう思って切り替える。

でも、それに甘えちゃダメ。

だって、場所に慣れないのは、相手だって同じことだから。


パンッ

「イン」

(よし!)


スマッシュが決まり、思わず小さくガッツポーズをする。だって、この劣勢でスマッシュが決まるのは大きい。

このままの勢いで、
絶対、このゲームを取ってみせる!


(といっても15対9。6点差……地味に嫌な点差。でも、ひよっちゃダメ。自信を無くしちゃダメ。絶対、点差を埋めてみせる)


天翔くんのためにも!


そして、私が再びラケットを強く握った時――

天翔くんは、主不在でもぬけの殻となっている私の部屋に、一人で立っていた。

< 58 / 89 >

この作品をシェア

pagetop