天使くん、その羽は使えません (短)
「ゲホッ、ゲホ!」


次から次に込み上げる咳に、思わず倒れそうになる。倒れまいと膝に両手を置くと、カランとラケットが床に落ちた。


(しまっ、!)


急いで拾おうとした、その時。パチンと音がした。そして世界から、一切の音が消えてなくなってしまう。


「なに、これ……どういうこと?」


周りを見ると、皆が固まっている。時計さえも動いてない。あ、そうか。時間が止まってるんだ。


(こんな事が出来るのは……)


息を整えながら、背中を伸ばす。周りをキョロキョロ見回すと、その人は、私のすぐ後ろに立っていた。


「天翔くん……」

「……」


背中から両翼を生やした天翔くん。体育館に天使の天翔くんがいるのが、全く似合わない。


「どうしたの?なんでここに?」

「……うん」


短く返事をしたきり、何も言わなくなってしまった天翔くん。どうしたんだろう?
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