天使くん、その羽は使えません (短)
俺の頭の中には、晴衣の寿命と、晴衣が死ぬ瞬間の映像がある。

今月の22日、夕方。晴衣は大型トラックに轢かれて死ぬんだ。自転車に乗ったまま、大きなラケットバッグを背負ったまま。

近いうちに死ぬ……それなのに、晴衣は嫌というほど生(せい)をまっとうしていた。部活に命を注いでいたんだ。

なんで?どうせ死ぬのに?

理解できなかった俺は、暇つぶしを兼ねて、晴衣の自主練に付き合った。毎日キツイメニューを組んだのに、晴衣はしんどそうにしながらも、ちゃんとこなした。

そんな晴衣を見て、俺は大会前夜。
晴衣の自転車を、整備したんだ。

もしブレーキが上手くかかったら。
もしペダルが軽くこげたら。
もし、もし、もし――

この自転車の性能を上げることで、晴衣は事故に遭わないかも。そうしたら、晴衣は生き延びることが出来るかも。

そう思った。

だけど……
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