失恋タッグ
「ちょっと、朝比奈くん、冗談きつすぎ···」 


沙苗ちゃんが顔を引きつらせながら言う。


「えっ?本心だけど···」


朝比奈くんはあっけらかんと答えた。


イケメンの朝比奈くんに言われて、沙苗ちゃんも言い返すことが出来ない。


「朝比奈···言葉が過ぎるぞ」


快斗はいつにない強い口調に、かなり怒っているのだと分かる。

私は隣に立つ朝比奈君を見上げてみるが、快斗の言葉に怯む様子はない。


それどころか···──


「····フッ··すみません。
図星をついてしまったら···失礼ですよね」


更に二人を逆撫でするようなことを口にする。


「朝比奈君ッ、そろそろ行くわよ。」


私は、流石にこの場の空気に耐えかねて口を開いた。


朝比奈君は「そうですね。」と、私に向かってニコリと微笑む。


一刻も早くこの場から立ち去りたくて、
自然と歩くスピードも早くなる。


「朝比奈ッ」


しかし、後ろから快斗の声が朝比奈くんを呼び止めた。


私が振り返ると快斗は今までに見たことないほどの鋭い視線を隣の朝比奈くんに向けていた。


「俺はお前に負けるつもりはない」  




「僕も負けるつもりはありませんが。
それより···───
あの件··忘れないでくださいね?」


朝比奈くんの言葉に、快斗は「···分かってるよ」と小さく呟くと、急にバツが悪そうに押し黙った。



「なに?」


私は朝比奈くんに向かって問いかける。


「仕事のことですよ。
それよりこんな人達に構ってないでミーティング始めましょう。」


こんな人達って···。


朝比奈くんは、私の肩を押してミーティングルームへと足を進める。


はあぁ...

直属の上司をクズ呼ばわりなんて...

この子には怖いものはないのだろうか...。

私はチラリと後ろで肩を押す朝比奈くんを見上げた。朝比奈くんは私と目が合うと、クスりと楽しげに微笑んだ。

どうやら彼には怖いものはないらしい···

私なんて、流石にこの修羅場的状況に寿命が縮む思いをしたというのに。

そして、後ろから二人の刺すような視線をヒシヒシと感じて、もう後ろを振り返ることは出来ない。

私はただ朝比奈くんに押されるがままに、ミーティングルームへと向かった。

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