失恋タッグ
「───…先輩ッ。秋月先輩ッ。起きてください」


「………ン」


私は朝比奈君の呼ぶ声に、ぼんやり目を開いた。


「秋月先輩、着きましたよ」


その言葉に車の窓から外に目を移した。

車は和菓子屋の前の駐車スペースに止められていて、木造の年季の入った平屋の和菓子屋の前にはすでに数人が行列をなしていた。


「ごめん…一人で寝てしまってたわね。

····え?もう11時っ、道混んでた?」

私はカーナビに表示されている時刻を見て目を丸くした。
10時半くらいには着くと思ってたのに、予定時刻より30分ほどオーバーしている。


「いえ。着いてすぐ先輩を起こそうとしたのですが、あまりにも気持ちよさそうに寝てたので···──
少しの間、先輩の寝顔を見ながら待ってました…」


「…··!!…··見てないでいいから、起こしてよっ」


私はその言葉に咄嗟に口元に手を当てた。

よだれは垂らしていないようでホッと胸を撫で下ろす。

しかし、きっと口を開けて凄い顔で寝ていたに違いない。

ったく···、変な気を遣わないで起こしてほしい。

自分の寝顔ほど他人に見られたくないものはない。

ああ···、なんだか朝比奈君には恥ずかしいところばかり、見られているような気がする……。
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