again
「森山？」

　声を掛けられ、美緒と佑樹は振り返った。柔らかい笑顔を向けているのは、繁田先生だった。

「石黒、お前こんなとこでクラスメートを口説いてんじゃないだろうな？」

　そう言うと、繁田先生は佑樹に悪戯な笑みを向けた。

「もうっ！　マジいいとこだったのに……なーんて」

　佑樹が白い歯を見せ、昔のようにおちゃらけて去っていった。

　佑樹の言葉が冗談だったのか本気だったのかはわからなかったが、この場をやり過ごせて美緒はほっとしていた。

「森山、元気にしてたか？」
「はい」
「ご家族は？」
「あぁ……まぁ。私ももう大人ですからね」
「そうだよな。皆すっかり大人になって……そりゃあ俺も老けるはずだな」

　繁田先生は少しはにかんだような、あの頃と変わらない笑顔を見せた。
　美緒は、懐かしむように教え子を眺める繁田先生の、少しだけ皺が増えた優しい横顔を見つめた。
　美緒が高三だった当時、繁田先生は二十七歳で、今は三十四歳ということになる。社会人になってたくさんの人に出会い、色々な経験を重ねてきたせいか、あの頃はとても大人に見えていた繁田先生との年齢差は全く気にならなくなっていた。


　卒業してからは、本当に様々なことがあった。
　美緒は就職して、職場で出会った男性と結婚した。二年後に子供が生まれて、その後すぐに離婚した。今はシングルマザーとして、仕事と育児の両立に奮闘している。
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