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 美緒の家庭は複雑だった。もとより進学は考えておらず、高校卒業後の進路は就職を希望していたが、実際は進学就職どころか、卒業も危うかった。その時期、色々なことが煩わしくなっていた美緒は、早く独り立ちしたくて、高三に進級したと同時に学校を辞めようかという考えが浮かび、担任である繁田先生に相談した。
 当然、繁田先生は美緒を引き留めた。美緒は成績も優秀で、問題を起こすような生徒でもなかった。
「色んな事情はあると思うが、出来れば高校は卒業してほしい。出来ることは協力するから、決断を急がないでくれ」と繁田先生は言ったが、学校の先生が協力出来ることなど高が知れている、と美緒はそれほど期待もしていなかった。
 けれど、言葉だけではなく、繁田先生は美緒の家に何度も足を運び美緒の母親と話し合った。美緒の家庭の事情に一歩踏み込んで、美緒の口からは直接言えなかったような母親への思いなどを代弁して、母親と大人同士の話し合いをしている繁田先生の姿を美緒は見ていた。

 美緒の父親は、美緒が小さい時に離婚して家を出た。それからは母親と二人で生活してきたが、母親もまだ若く、女としての幸せも捨てきれなかったのだ。
 高校生の美緒にも恋人と呼べる人が出来て、同じ女として母親の寂しい気持ちも理解出来たが、母親の恋人が家を出入りするようになると、やはり気持ちは複雑だった。
 そんな心境を繁田先生には包み隠さずに話していたのだ。

 美緒の中で、繁田先生は信頼出来る大人だった。

 そうなると、必然的に別の感情が芽生えてしまうもので……

 就職希望先から内定を貰えた秋には、美緒に恋心が芽生えていた。
 勿論、繁田先生への恋心だ。
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