again
二人で近くのバーに入った。
地下一階にある店内は、地上の喧騒から離れた落ち着いた空間が広がっていた。美緒が知るカジュアルなバーとは違い、重厚感漂う大人な雰囲気のバーだ。
二次会を断っていただけに、美緒はなんとなく後ろめたいような気持ちだった。店を出た時に、もしも二次会メンバーと出会したら、なんと言い訳をしようか、などと考えていた。
こんな場所に繁田先生と二人きりでいることに、不思議な感覚を覚えた。
「森山に会いたかったんだ」
突然そんな言葉を掛けられ、どう捉えていいのかわからず、美緒は言葉を詰まらせ繁田先生を見つめた。
「卒業してからも、森山のことが気になっていて、お母さんには時々連絡をしていたんだ」
「えっ!?」
初耳だった。
「仕事が順調だったことも、森山が結婚して幸せに暮らしていたことも、子供が生まれたことも、離婚したことも……知ってた」
「……驚きました」
それからしばらく沈黙が続いたあと、美緒は繁田先生のどこか落ち着きがない様子に気付いた。
「先生、どうかされましたか?」
「ああ……いや」
「ならいいんですけど……」
またしばらく沈黙が続いた。
繁田先生はグラスの中身を一気に流し込むと、口を開いた。
「なあ、森山?」
「はい」
「もう、結婚は懲り懲りかい?」
「どういう意味ですか?」
一応そう聞き返してみたが、どういう意味かは表情と態度を見ればわかる。
おそらく人生経験は先生よりも豊富だろう、と美緒は感じていた。
「あの……ゆっくりでいいんだ」
「ゆっくり……とは?」
美緒は繁田先生の顔を覗き込む。
「あの日の森山の言葉は、もう無効かい?」
そんなことを聞かれると、焦らしてみたくなる。
「……あれから私もまた幾つか恋愛をして、結婚もしましたからね」
「だよな……」
繁田先生の表情が少しだけ曇ったのが見て取れた。
それだけで、美緒の心は満たされた。
「でも、先生を憎んだことは一度もありませんよ」
「……そうか」
言うべきか、待つべきか、と美緒は悩んだ。
けれど……
「先生のことは、今もやっぱり大好きです」
二度目の告白も美緒からだった。
【完】
地下一階にある店内は、地上の喧騒から離れた落ち着いた空間が広がっていた。美緒が知るカジュアルなバーとは違い、重厚感漂う大人な雰囲気のバーだ。
二次会を断っていただけに、美緒はなんとなく後ろめたいような気持ちだった。店を出た時に、もしも二次会メンバーと出会したら、なんと言い訳をしようか、などと考えていた。
こんな場所に繁田先生と二人きりでいることに、不思議な感覚を覚えた。
「森山に会いたかったんだ」
突然そんな言葉を掛けられ、どう捉えていいのかわからず、美緒は言葉を詰まらせ繁田先生を見つめた。
「卒業してからも、森山のことが気になっていて、お母さんには時々連絡をしていたんだ」
「えっ!?」
初耳だった。
「仕事が順調だったことも、森山が結婚して幸せに暮らしていたことも、子供が生まれたことも、離婚したことも……知ってた」
「……驚きました」
それからしばらく沈黙が続いたあと、美緒は繁田先生のどこか落ち着きがない様子に気付いた。
「先生、どうかされましたか?」
「ああ……いや」
「ならいいんですけど……」
またしばらく沈黙が続いた。
繁田先生はグラスの中身を一気に流し込むと、口を開いた。
「なあ、森山?」
「はい」
「もう、結婚は懲り懲りかい?」
「どういう意味ですか?」
一応そう聞き返してみたが、どういう意味かは表情と態度を見ればわかる。
おそらく人生経験は先生よりも豊富だろう、と美緒は感じていた。
「あの……ゆっくりでいいんだ」
「ゆっくり……とは?」
美緒は繁田先生の顔を覗き込む。
「あの日の森山の言葉は、もう無効かい?」
そんなことを聞かれると、焦らしてみたくなる。
「……あれから私もまた幾つか恋愛をして、結婚もしましたからね」
「だよな……」
繁田先生の表情が少しだけ曇ったのが見て取れた。
それだけで、美緒の心は満たされた。
「でも、先生を憎んだことは一度もありませんよ」
「……そうか」
言うべきか、待つべきか、と美緒は悩んだ。
けれど……
「先生のことは、今もやっぱり大好きです」
二度目の告白も美緒からだった。
【完】