3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
第7話.本当の気持ち
「美守先輩、最近また元気ないですね?大丈夫ですか?」
テーブルを挟んで向かい側に座る桜井さんは、無意識に漏れ出てしまった溜息に、とても心配そうな面持ちで私の顔を覗き込んでくる。
「……あ、すみません。せっかくのお食事なのに」
彼女に気を遣わせてしまった申し訳なさに、私は慌てて謝ると、別に隠す話でもないので、ここは素直に胸の内を明かそうと徐に口を開いた。
「全然大したことではないです。ただ、暫く楓様のご宿泊がないので、専属バトラーとして手持ち無沙汰になっているだけです。……まあ、お仕事はそれだけじゃないんですけどね」
なんて苦笑いを浮かべながら、少しバツが悪くなった私はつい視線を落としてしまう。
ホテルマンとしてどのお客様にも平等に誠心誠意尽くさなくてはいけないのに、楓様以外の方にはあの時のような熱量を感じない。
勿論バトラーとして精一杯のおもてなしをして差し上げるよう常に心掛けているし、手を抜くことは決してない。
けど、やっぱり気持ちの入り具合は全然違う。
あれから既に一ヶ月くらいは経過しており、少しは侘しさも薄れるかと思いきや、益々深まってくる気持ちにずっと混乱している。
何故こんなにも楓様を求めてしまうのか。
それは、初めての主人にあたるお方だからなのか。
それとも、楓様の事情に踏み込み過ぎたからなのか。
この気持ちの意味が一体何なのか分からず、楓様がチェックアウトをされた時からずっと悶々としている。
「……もしかして美守先輩って東郷様の事気になっているんですか?」
そんな私を暫くじっと眺めた後、ポツリと呟いた桜井さんの一言に、私は顔を上げる。
「はい、気になってますよ?またいつ頃宿泊されるのかとか……」
「そういう意味じゃなくて、好きなんですかって事です!」
何やらきょとんとする私の反応が思っていたのと違かったようで、桜井さんは大きく首を横に振ると、食い気味に言い直してきた。
そして、その言葉に面を食らった私は、口を開けたまま暫くその場で固まってしまう。