3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「それ、シャンパンの事だよ。ラウンジに行けば直ぐ用意してくれるから大丈夫」

そして、遠い目をしながら教えてくれる瀬名さんの様子に、私は妙な胸騒ぎを覚える。

「あ、あの……、3121号室の東郷様って……もしかして……」

その名前を目にした時から、ずっと引っ掛かっていた事。

それは、当ホテルの代表取締役と同じ名前である事。

まさかとは思ったけど、御子柴マネージャーの様子を思い浮かべば合点がいく。

私は確認のため恐る恐る尋ねてみると、こちらが言い終わる前に瀬名さんは無言で首を縦に振った。

「うん、そうだよ。うちの代表取締役のご子息。3121号室はその方の専用部屋みたいなものだから、このやり取りはもう日常茶飯事なんだ」

それから、苦笑いを浮かべながら答えてくれた話に、私はようやく瀬名さんが見せた反応の意味が分かった。

「そ、それではお待たせする訳にはいきませんね!急いで行って参ります!」

どんな方なのか益々不安が募っていくけど、代表取締役のご子息とあれば御子柴マネージャーが言うように絶対に粗相があってはいけないと、慌ててその場から駆け出す。

「あっ、天野さん!」

すると、急に背後から瀬名さんに呼び止められ、何だろうと振り向くと、暫く返答がないまま私をじっと見つめてくる。

「…………ごめん、何でもない。とりあえず、頑張ってね」

そして、ようやく口を開いたかと思えば、何やらとても神妙な面持ちで励まされてしまい、私は再び訳が分からないまま頷くと、足早にラウンジへと向かったのだった。
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