3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇




瀬名さんが言うように、ラウンジの方に3121号室と部屋番を伝えただけで、一瞬にしてシャンパンと軽食を用意してくれた。

その素早い対応に圧倒されながらも、私はワゴンを引いて、早足で例の部屋へと向かう。

どんどんと部屋が近付くにつれて、今までにないくらいの不安と緊張感が膨れ上がり、私は段々と冷や汗が垂れてくる。

VIP階層だから数々の著名人の方をお相手するのだろうと覚悟はしていたけど、まさか東郷代表のご子息様とは。

今まで一般階層を担当していたので、情報がそこまで降りてこないのは致し方ない話ではあるけど、衝撃的事実に今でも驚きを隠せない。


確か年齢は私の二つ上だと聞いていたので、東郷代表よりはもしかしたら接しやすいのかもしれないけど……。


……あんな態度をするお方だったなんて。


先程のやり取りを思い出せば、じわりと怒りがこみ上がってくるけど、そこは我慢して冷静に対処しなければホテルマンとして失格だ。

母親からも、人に寛容であれと言われ続けていたのだから、私も瀬名さんみたいにもっと大人にならなければ。

そう自分に言い聞かせ、私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、3121号室の扉の前で立ち止まった。
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