3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

第8話.しがらみ



年に一度開催される、東郷家主催の東郷グループ懇親パーティー。

当ホテルの宴会場で東郷グループと繋がりのある資本家や投資家の方々を集めて親交を深めるこの場は、今後の経営にも大きく関わるので、毎年欠かせない行事となっている。
参加者も多く、立食型のパーティーなので、一般階層勤務の私も過去に何度か応援に従事していたことがあった。

当時は配膳係としてあくせく動き回っていたので、東郷家の方達のお姿など見ている余裕もなく終わっていた。
けど、今回もバンケット(宴会)スタッフのお手伝いはするものの、専属バトラーとして何かあればご支援をするので、基本はパーティー中でも楓様のお側に仕えることになる。

つまりは、東郷家の人間とも関わる可能性が大いにあり、しかも楓様の婚約者も出席されるとのことなので、嬉しい反面、緊張と恐怖が入り混じりとても複雑な心境だった。

それでも、ようやく楓様とお会いする事が出来るので、日が近付くにつれ期待値がどんどんと上がっていき、気を引き締めていないと頬が緩んでしまう。


失恋して以降、楓様への気持ちを認めてしまったが故で、我ながら何て単純な人間なのかとつくづく思うけど、この気持ちはもう止めることが出来なかった。

一方、瀬名さんへの恋心が完全に消えるまでにはやはりまだ時間は掛かりそうなので、このどっちつかずな感情に混乱しているのもまた事実。


そんな気持ちを抱えながら、ついに迎えた懇親パーティー当日。

兎にも角にも、東郷家の大事な席で失態を晒すことなど絶対にあってはならないので、今は浮ついている場合ではないと。気持ちを引き締めて私は今日という日を向かえる。
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