3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それから楓様をお迎えするまで、私はバンケットスタッフの方々と合流し、セッティングの準備に追われていた。
会場は当ホテルの最上階に位置し、五百人程の収容人数規模の広い大広間で、豪華なシャンデリアが吊り下げられ、天井まで窓が張り巡らされた壁一面には都内の夜景が180度見渡せる構造となっている。
バンケット部門ではないので滅多にこの会場には足を踏み入れることはないけど、たまに応援で来る度、この見晴らしの素晴らしさには毎回圧倒されてしまう。
後数時間もすれば、このだだっ広い会場は沢山の資本家や投資家の方々で埋め尽くされる。
日本屈指の財閥とあり著名人の方も多く出席されるようなので、この東郷グループの懇親パーティーが開催される日は当ホテルのスタッフも気が気ではない。
そんな中で、私は主催者側に立ってお仕えしなくてはいけないと思うと、その重圧に今から胸が押しつぶされそうになる。
それに、東郷家が一同に揃う場でもあるので、また別の意味での緊張と不安が襲ってくる。
けど、白鳥様もいらっしゃるし、御子柴マネージャーもフォローに回って下さるそうなので、あまり深くは考えず、毅然とした態度で楓様のお側に居ようと、改めて気合いを入れ直すと、私は止めていた手を動かして作業に集中する。
そして、迎えた会場受付開始時間。ホテルのロビー内にはパーティーの出席者で人が溢れ始めてきた。
瀬名さんも受付係として応援に回っているそうで、今回はお互いの持ち場が違うため接する機会が無いことに肩を落とす反面、もうすぐ楓様に会えるという期待に胸が躍る。
___数十分後。
ついに待ち構えていた白鳥様の連絡が入り、私は早足でホテルの玄関前へ向かうと、高鳴る鼓動を抑えながら、お二人がいらっしゃるのを今か今かとお待ちする。
「楓様、白鳥様。ご無沙汰しております」
それから数分経過すると、ようやくお二人の姿が見え始め、私は会えなかった分の気持ちを込めて深く頭を下げてご挨拶をした。
「……あー、帰りたい」
けど、久しぶりの顔合わせだというのに、楓様は相変わらずこちらには見向きもせず、喜びに満ちた表情をする私とは裏腹に、とても気怠そうな面持ちで深い溜息を吐いた。
「天野様、今日はよろしくお願いします。宴会中は基本私と楓様が適当に接待しているだけので、そこまで気負いしなくて大丈夫ですから」
一方、白鳥様は変わらず淡々とした様子でフォローを入れて下さり、その言葉に私は少しだけ緊張の糸が解れる。
「とりあえず、楓様は一旦部屋で着替えてきてください。私は会場入り口で待機してますので、くれぐれもこれ以上遅れることのないように天野様しっかりと見張っててくださいね」
「はい。かしこまりました」
鋭い眼光を放ちながら託された任務に私は大きく頷くと、その隣に立っていた楓様から舌打ちの音が聞こえてきた。