3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
その後、白鳥様からパーティー用のスーツを受け取った後、私達は3121号室へと向かう。

やはり楓様は余計な会話をすることもなく、終始無言のままお部屋に到着すると、二度目の深い溜息を吐いて渋々パーティー用のスーツに着替え始めた。

確かに、ここまで楓様が嫌がるのも無理はない。
東郷一族の異端的存在であり、そして、それを取り巻く世間の目。

私の目から見ても、この東郷グループの懇親パーティーは楓様にとって良いものではないのが容易に想像つく。

けど、もう何度も出席されていらっしゃるだろうし、楓様は東郷グループの重役でもあるので、ぞんざいな扱いを受けることは先ずないとは思うけど、どんな空気になるのか、考えただけで私まで気が重くなってきてしまう。

何だか楓様の憂鬱に感化されてしまった私は、気付かれないように小さく肩を落とすと、脱ぎ捨てられたスーツを回収しようとした時だった。


「あら、ネクタイが少し曲がっていらっしゃいますね」

鏡も見ずに着替え終えた楓様の首元に目がいき、私は手に取った上着を一旦置くと、曲がったシルバーのネクタイを直すために彼の元へと近寄る。

「はい、これで大丈夫ですよ」

そして、少し傾いたネクタイを正しい位置に戻し笑顔で見上げると、ずっと見られていたのか、琥珀色の綺麗な瞳が私の目を捉え、暫くそのまま無言で見詰められてしまった。

「あ、あの……どうかなさいましたか?」

何故凝視されいるのか訳が分からず、しかも見られていることに私の頬は無条件で赤くなっていき、この空気にそろそろ限界を迎えそうになったところで、楓様は私から視線を外した。

「喉乾いたから水持ってこい」

それから私の問いかけに返答することなく、何事もなかったように楓様は命令すると、引き続き身支度を始めたので、私は疑問が解消されないまま高鳴る鼓動を抑え、言われた通りグラスを取り出して冷たいお水をお持ちした。

グラスを受け取った楓様はお水を一気に飲み干した後、小さく息を吐く。

「行くぞ」

それが気合い入れとなったのか。持っていたグラスをテーブルに置いたと同時に、私には構わず足早にお部屋を出て行ってしまわれたので、私は慌ててその後を追ったのだった。
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