3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
その時、私のポケットに入っていた楓様専用の呼び出しベルが鳴り出し、私は手に持っていたトレーを近くにいた従業員の方にお渡しすると、慌てて東郷家のテーブルへと戻った。
「楓様、どうされましたか?」
「へえー、本当にこのボタンひとつで来るのね。面白い」
何事かと思いきや、何故か呼び出しボタンを楓様の婚約者が手に持っていて、私が到着した途端蔑んだ目でくすくすと笑われ、一瞬呆気に取られてしまう。
「泉様。天野様もお忙しいので、不要な呼び出しは如何なものかと思いますが」
何も言えずに立ち尽くす私の代わりに、隣に居た白鳥様がいつもの無表情ぶりでピシャリと注意をして下さり、胸のモヤモヤが少し晴れていく気がした。
「あなた秘書のくせに、随分と私に出しゃばった態度を取るのね?」
「ただ一般常識を申し上げたまでです」
戒められたことがよっぽど不服だったのか。泉様と呼ばれた方は綺麗な顔を歪ませて挑発するも、白鳥様は全く同じることなく、普段のように表情を崩さず静かに反論する。
「……全く。この場でくだらない真似をするな」
そんな不穏な空気を放つお二方の様子を呆れた様子で眺めていた楓様は小さく溜息を吐くと、泉様から呼び出しボタンを取り上げ、そのままポケットにしまった。
「楓君、久しぶりだね。泉が随分お世話になっているよ」
すると、間髪入れずに背後から突然恰幅の良い中年の男性が現れると、笑顔で楓様の肩を掴んできた。
「浅野代表ご無沙汰しております。こちらこそ、泉さんと良好なお付き合いをさせて頂き大変感謝しております」
会話の内容からするに、おそらく泉様のお父様なのでしょう。
楓様はすぐさま余所行きの笑顔を見せると、一礼をし、普段では考えられないような社交辞令を流暢に繰り広げ、その場を盛り上がらせる。
そして、その隣では泉様が頬を染めながら再び楓様の腕に絡み付き、一緒に会話を楽しんでいた。
これが東郷家の人間としての立ち振る舞いなのでしょうか。
以前楓様も仰っていた、所詮は自分も東郷グループの駒の一つであるという言葉が思い出される。
例え楓様がどんな生い立ちをしようとも、東郷家の一員であることには変わらないので、その役目を全うしているお姿に胸が締め付けられた。
「ああ、浅野君。丁度いいところに。私もそちらに伺おうとしていたんだ。そろそろ本格的に泉さんとの結婚話を勧めようと思ってね」
その時、今度はこちらの様子に気付いた東郷代表も笑顔で近付いてきて、二人の会話に加わり話は更に発展する。
「東郷家と浅野家が繋がれば、海外事業も円滑に進められそうだし、お嬢様はお綺麗な方だし、お陰で一石二鳥だよ」
「それはこちらの台詞ですよ。泉は大分楓君に夢中みたいだからね。早く結婚させてくれって毎回急かされてて」
「もう、お父様ったら。あまり人前で言うのは止めて下さい」
そんな和気藹々とした光景を私は側から眺めていて、私は段々とこの場にいる事が辛くなっていき、持ち場へと戻ろうとした時だった。
「美守」
突然楓様から名前を呼ばれ、私だけではなく、この場にいた全員が驚いた表情を彼に向ける。
「替えのドリンク持って来て」
しかし、そんな視線を全く気にすることなく、楓様はいつもよりも若干柔らかい口調でそう仰ると、空のグラスを私に渡してきた。
「……か、楓さん。ホテルの従業員を下の名前で呼んでいるのですか?」
楓様の名前呼びは周りの人達にもかなり衝撃的だったようで、泉様は表情を曇らせながら恐る恐る尋ねる。
「ただの呼び名だ。他意はない」
けど、相変わらず楓様は毅然とした態度で泉様の問い掛けをさらりと交わされ、私は何だかこの場の空気に耐えられず、深く一礼すると慌ててドリンクを取りに行った。
「楓様、どうされましたか?」
「へえー、本当にこのボタンひとつで来るのね。面白い」
何事かと思いきや、何故か呼び出しボタンを楓様の婚約者が手に持っていて、私が到着した途端蔑んだ目でくすくすと笑われ、一瞬呆気に取られてしまう。
「泉様。天野様もお忙しいので、不要な呼び出しは如何なものかと思いますが」
何も言えずに立ち尽くす私の代わりに、隣に居た白鳥様がいつもの無表情ぶりでピシャリと注意をして下さり、胸のモヤモヤが少し晴れていく気がした。
「あなた秘書のくせに、随分と私に出しゃばった態度を取るのね?」
「ただ一般常識を申し上げたまでです」
戒められたことがよっぽど不服だったのか。泉様と呼ばれた方は綺麗な顔を歪ませて挑発するも、白鳥様は全く同じることなく、普段のように表情を崩さず静かに反論する。
「……全く。この場でくだらない真似をするな」
そんな不穏な空気を放つお二方の様子を呆れた様子で眺めていた楓様は小さく溜息を吐くと、泉様から呼び出しボタンを取り上げ、そのままポケットにしまった。
「楓君、久しぶりだね。泉が随分お世話になっているよ」
すると、間髪入れずに背後から突然恰幅の良い中年の男性が現れると、笑顔で楓様の肩を掴んできた。
「浅野代表ご無沙汰しております。こちらこそ、泉さんと良好なお付き合いをさせて頂き大変感謝しております」
会話の内容からするに、おそらく泉様のお父様なのでしょう。
楓様はすぐさま余所行きの笑顔を見せると、一礼をし、普段では考えられないような社交辞令を流暢に繰り広げ、その場を盛り上がらせる。
そして、その隣では泉様が頬を染めながら再び楓様の腕に絡み付き、一緒に会話を楽しんでいた。
これが東郷家の人間としての立ち振る舞いなのでしょうか。
以前楓様も仰っていた、所詮は自分も東郷グループの駒の一つであるという言葉が思い出される。
例え楓様がどんな生い立ちをしようとも、東郷家の一員であることには変わらないので、その役目を全うしているお姿に胸が締め付けられた。
「ああ、浅野君。丁度いいところに。私もそちらに伺おうとしていたんだ。そろそろ本格的に泉さんとの結婚話を勧めようと思ってね」
その時、今度はこちらの様子に気付いた東郷代表も笑顔で近付いてきて、二人の会話に加わり話は更に発展する。
「東郷家と浅野家が繋がれば、海外事業も円滑に進められそうだし、お嬢様はお綺麗な方だし、お陰で一石二鳥だよ」
「それはこちらの台詞ですよ。泉は大分楓君に夢中みたいだからね。早く結婚させてくれって毎回急かされてて」
「もう、お父様ったら。あまり人前で言うのは止めて下さい」
そんな和気藹々とした光景を私は側から眺めていて、私は段々とこの場にいる事が辛くなっていき、持ち場へと戻ろうとした時だった。
「美守」
突然楓様から名前を呼ばれ、私だけではなく、この場にいた全員が驚いた表情を彼に向ける。
「替えのドリンク持って来て」
しかし、そんな視線を全く気にすることなく、楓様はいつもよりも若干柔らかい口調でそう仰ると、空のグラスを私に渡してきた。
「……か、楓さん。ホテルの従業員を下の名前で呼んでいるのですか?」
楓様の名前呼びは周りの人達にもかなり衝撃的だったようで、泉様は表情を曇らせながら恐る恐る尋ねる。
「ただの呼び名だ。他意はない」
けど、相変わらず楓様は毅然とした態度で泉様の問い掛けをさらりと交わされ、私は何だかこの場の空気に耐えられず、深く一礼すると慌ててドリンクを取りに行った。