3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜




「美守、もうちょっとそこ強く」

「この辺ですか?」

「ああ、そこ集中的に」

「確かにここだけ大分凝り固まってますね」


楓様がお風呂から出た後、朝食よりも先に私は昨日と同じようにソファーに座ってもらい、肩揉みに励んだ。

「楓様私の腕はどうですか?ご満足して頂けてますか?」

そして、昨日よりも少し余裕が出てきた私は、楓様の反応がそれなりに良くなってきたのを見計らって、ここぞとばかりに自分の腕前を確認してみる。

「あー……まあ、悪くはないな」

楓様にはっきりと認めて貰えるとは思っていなかったので、概ね予想通りの返答に、私は密かに口元を緩ませた。

「それでは、またお疲れの時はいつでも仰って下さいね。それまで腕を上げておきますので」

それから、もっとご満足して頂けるように、時間が空いた時にでも当ホテルのマッサージ師の方々に脳波を伝授して頂こうと、更なるやる気に満ち溢れる。

「別に言われなくても、さっきみたいに美守の好きなようにやればいいから」

すると、何気なくサラッと言われた言葉があまりにも衝撃的過ぎて、私は驚愕のあまり思わず手が止まってしまう。

「……よ、よろしいのですか?以前出しゃばった真似はするなと仰っていましたが?」

これまでの楓様を振り返ると、到底信じられない話に、ようやく絞り出した声で私は恐る恐る確認してみる。

「あんたの仕事っぷりを認めてやったんだよ。いいから、これからも専属としてしっかりやれ」

照れていらっしゃるのか。最後は相変わらずの命令口調で睨まれてしまったけど、いつもの鋭さはなく、はにかむような表情で軽く睨んできた楓様の頬は、何処となく赤く染まっているように思えた。

それが益々嬉しくて、愛しくて、私は自然と笑顔が溢れる。

「はい!引き続き、誠心誠意尽くさせて頂きますね」

そんな気持ちをたっぷりと込めて、私は満面の笑みで大きく頷いたのだった。
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