3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
第10話.障壁
眩しい朝日がカーテンの隙間から差し込む。
同時に、枕元で単調な機械音が鳴り響くアラームを止めようと、私はうっすらと目を開いて所定の位置にある携帯を手探りで探す。
割と寝起きが良い方なので、アラーム音を止めて直ぐに上半身を起こすと、傍にある淡いグリーンのカーテンに手を掛けて窓の外を覗いた。
「今日も素晴らしい秋晴れですね……」
雲一つない、真っ青な空に向かってそう呟くと、目覚めの良い朝に気分を良くした私は、軽い伸びをした後、ゆっくりとベットから立ち上がり、モーニングルーティーンになっているコップ一杯の水を飲む為に、食器棚からあのグラスを手にとる。
楓様に買って頂いた上に、お揃いである特別なタンブラー型グラス。
耐熱加工が施された透明ガラスの下部に、おそらく北欧言語と思われる白字の筆記体で小さな文字が彫られたシンプルな作り。
なんて記載されているのか気になり、翻訳アプリを使ってみたら、そこには“今日という日があなたの幸せに繋がりますように”と表示された。
私はその言葉に軽い衝撃を受ける。
“幸せ”という言葉は、以前楓様が忌み嫌っていたもの。
果たして彼はその意味を知らずに手を伸ばしたのか、もしくは優秀なお方なので実はご存知だったのか。
だとしたら、彼の心に何か変化があったのか。
それから、ずっと気になり始めているけど、流石に真意を確かめることは出来ず、この疑問はずっと解消されないままなのでしょう。
……と、私は諦めたように小さく肩を落とし、冷蔵庫からペットボトルのお水を取り出して、グラスに注ぎそれを口に運ぶ。
乾いた喉に冷たい水が流れ込み、体に染み込んでくる。
それは、まるで昨日の楓様の優しさのように。
心にも潤いが広がっていくような感覚に満たされながら、私は飲み終えたグラスをテーブルに置く。
思い返せば、本当に信じられないくらい沢山の事が起こりすぎて、今でも気持ちが追いついて行かない。
楓様とショッピングをして、グラスを買って頂いて、誕生日も一緒にお祝い出来て、そして初めて手を繋いで歩いた。
仕事の延長線とはいえ、これはまるでデートみたいなものなのでは……?
……なんて。
少しでも油断すると、そんな自惚れた身の程知らずな考えが入り込んでしまうので、私はそれを振り払うように大きく首を横に振る。
どんなに期待を寄せたとしても、楓様はあの後泉様との結婚を本格的に進める為に行かれてしまった。
一寸の迷いもなく、真っ直ぐとした目で……。
そんな私が入り込める隙なんて、あの表情を見るとこれまでの意気込みが全部無駄だと思えるくらい何処にもない。
それなのに、未だ諦めることはないし、諦めようとも思わない。
それもこれも、全部別れ際に楓様が仰って下さった言葉のせいだ。
あんな柔らかい笑顔で私のお陰だなんて、そんな風に言われてしまっては益々楓様の存在に縛られてしまう。
そして、誕生日の話をされた時に気づいた、隠された意味。
“思い出した”というのは、もしかしたらお母様が生きていらっしゃった頃なのかもしれない。
確か楓様は八歳で引き取られたと聞いたので、きっとそれ以前は私達と同じように愛情深く育てられていたのでしょう。
そんな記憶がまだ彼の中に残っているのだとしたら、人の愛情を忘れていないのであれば、私はそれを過去だけの話にさせたくない。
一体これからどうなっていくのかは全く分からないけど、このまま、自分らしくしていけば、また楓様をご満足させる事が出来れば、もしかしたら、望む未来に繋がるかもしれない。
正しく、このグラスに書かれている言葉のように……。
そう思い、私は空になったグラスを再び手に取ると、暫く愛おしい目でその文字を見続けたのだった。
同時に、枕元で単調な機械音が鳴り響くアラームを止めようと、私はうっすらと目を開いて所定の位置にある携帯を手探りで探す。
割と寝起きが良い方なので、アラーム音を止めて直ぐに上半身を起こすと、傍にある淡いグリーンのカーテンに手を掛けて窓の外を覗いた。
「今日も素晴らしい秋晴れですね……」
雲一つない、真っ青な空に向かってそう呟くと、目覚めの良い朝に気分を良くした私は、軽い伸びをした後、ゆっくりとベットから立ち上がり、モーニングルーティーンになっているコップ一杯の水を飲む為に、食器棚からあのグラスを手にとる。
楓様に買って頂いた上に、お揃いである特別なタンブラー型グラス。
耐熱加工が施された透明ガラスの下部に、おそらく北欧言語と思われる白字の筆記体で小さな文字が彫られたシンプルな作り。
なんて記載されているのか気になり、翻訳アプリを使ってみたら、そこには“今日という日があなたの幸せに繋がりますように”と表示された。
私はその言葉に軽い衝撃を受ける。
“幸せ”という言葉は、以前楓様が忌み嫌っていたもの。
果たして彼はその意味を知らずに手を伸ばしたのか、もしくは優秀なお方なので実はご存知だったのか。
だとしたら、彼の心に何か変化があったのか。
それから、ずっと気になり始めているけど、流石に真意を確かめることは出来ず、この疑問はずっと解消されないままなのでしょう。
……と、私は諦めたように小さく肩を落とし、冷蔵庫からペットボトルのお水を取り出して、グラスに注ぎそれを口に運ぶ。
乾いた喉に冷たい水が流れ込み、体に染み込んでくる。
それは、まるで昨日の楓様の優しさのように。
心にも潤いが広がっていくような感覚に満たされながら、私は飲み終えたグラスをテーブルに置く。
思い返せば、本当に信じられないくらい沢山の事が起こりすぎて、今でも気持ちが追いついて行かない。
楓様とショッピングをして、グラスを買って頂いて、誕生日も一緒にお祝い出来て、そして初めて手を繋いで歩いた。
仕事の延長線とはいえ、これはまるでデートみたいなものなのでは……?
……なんて。
少しでも油断すると、そんな自惚れた身の程知らずな考えが入り込んでしまうので、私はそれを振り払うように大きく首を横に振る。
どんなに期待を寄せたとしても、楓様はあの後泉様との結婚を本格的に進める為に行かれてしまった。
一寸の迷いもなく、真っ直ぐとした目で……。
そんな私が入り込める隙なんて、あの表情を見るとこれまでの意気込みが全部無駄だと思えるくらい何処にもない。
それなのに、未だ諦めることはないし、諦めようとも思わない。
それもこれも、全部別れ際に楓様が仰って下さった言葉のせいだ。
あんな柔らかい笑顔で私のお陰だなんて、そんな風に言われてしまっては益々楓様の存在に縛られてしまう。
そして、誕生日の話をされた時に気づいた、隠された意味。
“思い出した”というのは、もしかしたらお母様が生きていらっしゃった頃なのかもしれない。
確か楓様は八歳で引き取られたと聞いたので、きっとそれ以前は私達と同じように愛情深く育てられていたのでしょう。
そんな記憶がまだ彼の中に残っているのだとしたら、人の愛情を忘れていないのであれば、私はそれを過去だけの話にさせたくない。
一体これからどうなっていくのかは全く分からないけど、このまま、自分らしくしていけば、また楓様をご満足させる事が出来れば、もしかしたら、望む未来に繋がるかもしれない。
正しく、このグラスに書かれている言葉のように……。
そう思い、私は空になったグラスを再び手に取ると、暫く愛おしい目でその文字を見続けたのだった。