3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
そこには上半身裸の男性と全裸の女性が広いソファーの上で抱き合っている姿。

普通、この場に人が居合わせれば、そこで行為が止まる筈だと思うのだけど、私なんて存在しないかのように、こちらを気にすることもなく二人は熱いキスを交わしながら、今までに見たこともない世界が繰り広げられる。


……え?え?え?


人生で初めて見る肉親以外の男性の体。 

それ以上に男女の営む姿なんて、ただでさえ写真や映像でも一切見た事がないのに、今まさに自分の目の前で繰り広げられている状況に頭の中が真っ白になる。


「ああん、そこ凄く気持ち良いです!」

基本声を発しているのは女性だけで、その大きな声が部屋中に響き渡り、そこで私は我に返る。


兎に角、持ってきた品を早くテーブルにセットしなくてはっ!!

そこから私はまるで命を狙われているような心境に陥りながら、自分でも驚くぐらいの機敏な動きで、シャンパンと軽食を準備していく。

視線は自分の手元のみに集中させて視野を狭ませてはいるけど、段々と連発し始める女性の喘ぎ声のせいで食器を持つ手が尋常じゃなく震え出す。


ああ、早くっ!

早くここから立ち去りたいっ!!

1分、1秒、1ミリ秒、1マイクロ秒……。

とにかく早くっ!!!!


心の中で1秒以下の単位をこれでもかと羅列しながら、ようやくセッティングを終えた私は、一礼をする事も忘れて逃げるようにその場から勢いよく立ち去ったのだった。
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