3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇
___時刻は正午過ぎ。
今日からまた数日楓様のご宿泊が始まるので、私は期待に胸を膨らませながら、早速始まった専属バトラーの仕事をするべく、楓様の会社に足を運ぶ。
どうやらホテル内でも仕事をする為の資料のコピーや衣類などの荷物があるので、先に受け取りに来て欲しいと白鳥様から連絡があり、私はだだっ広いロビーにある受付へと向かった。
事情を話すと受付の方は直ぐに取り合って頂き、ロビーの待合室に案内されると、それから程なくして白鳥様が黒い大きなキャリーケースを持っていらっしゃった。
「本当は本人に向かわせるつもりでしたが、生憎只今会議中でして」
白鳥様でも全然構わなかったけど、まるで私の気持ちをご存知なのかと思う程の的を射るような発言に、一瞬たじろいでしまう。
「そういえば、あの時楓様のお誕生日を教えて下さってありがとうございました」
ひとまずキャリーケースを受け取った後、私は以前の出来事を振り返り、白鳥様に深々と頭を下げた。
「いえ。ただ何となくあの場で天野様にはお伝えした方がいいかと思いまして。最近楓様の機嫌が良いものですから」
すると、相変わらずの感情が読めない表情で仰られた言葉に私は内心驚きながらも、どういう意味なのかいまいち良く理解が出来ず、首を横に傾げる。
「今まで東郷グループの懇親パーティーが終わった次の日は決まって機嫌が悪かったんです。今回は泉様の件も加わったので、もっと最悪なのかと思いましたけど、この前のパーティーの後は嘘みたいに晴々としていて、あんな姿は初めて見ましたし、正直驚きました」
そう淡々と語り始める白鳥様の話に、私は静かに耳を傾けながらも、胸中は騒めき立ち、徐々に鼓動が高鳴ってくる。
「だから、今回も天野様に楓様のお誕生日をお伝えすれば、何かあるのかもしれないと思っていましたが……」
そこまで話すと、白鳥様は突然私の目をじっと見つめてきて、今度は別の意味で鼓動が早くなっていく。
「そしたら、見事期待通りで、まさかこれ程までとは。おみそれしました」
そして、急に白鳥様から頭を下げられてしまい、私は訳が分からないままその場で激しく狼狽える。
「そ、そんな。私はただ勝手に楓様のお誕生日をお祝いしたかっただけで、頭を下げられるようなことなんて何もないですよ?」
一体彼に何があったのか。確かに、あの時楓様は喜んでいらっしゃったし、達成感もあった。
けど、つまるところ、ただ私は一方的に想いをぶつけただけなので、そこまで言われてしまうと大変恐縮してしまう。
そんな私の様子を黙って眺めていた白鳥様は、無表情からの不意に口元を緩ませてきて、私は再び驚愕の眼差しを向ける。
「ご存知でしょうけど、楓様はもうすぐ結婚されます。そうなれば、おそらくそちらに足を運ぶ機会は激変するでしょう。そして、今以上に自由に動けなくなると思います」
どんな言葉をかけられるのかと思いきや、予想とは裏腹に厳しい現実を突きつけられてしまい、とんだ見当違いの話に私は一気に表情が曇りだす。
「だから、そうなる前に、せめて少しでも息が吸える環境に触れられればと思っていましたが、天野様がその役目を果たして下さいましたので、本当に感謝しています」
そんな意気消沈している中、最後には予期せぬお礼の言葉を頂き、私は少しだけ表情が明るくなり始めるも、白鳥様も楓様同様、どんなに彼の事を思っていたとしても、結婚話に関して不平を漏らすことなく現状を受け入れている様子に、私は胸が痛みだす。
___時刻は正午過ぎ。
今日からまた数日楓様のご宿泊が始まるので、私は期待に胸を膨らませながら、早速始まった専属バトラーの仕事をするべく、楓様の会社に足を運ぶ。
どうやらホテル内でも仕事をする為の資料のコピーや衣類などの荷物があるので、先に受け取りに来て欲しいと白鳥様から連絡があり、私はだだっ広いロビーにある受付へと向かった。
事情を話すと受付の方は直ぐに取り合って頂き、ロビーの待合室に案内されると、それから程なくして白鳥様が黒い大きなキャリーケースを持っていらっしゃった。
「本当は本人に向かわせるつもりでしたが、生憎只今会議中でして」
白鳥様でも全然構わなかったけど、まるで私の気持ちをご存知なのかと思う程の的を射るような発言に、一瞬たじろいでしまう。
「そういえば、あの時楓様のお誕生日を教えて下さってありがとうございました」
ひとまずキャリーケースを受け取った後、私は以前の出来事を振り返り、白鳥様に深々と頭を下げた。
「いえ。ただ何となくあの場で天野様にはお伝えした方がいいかと思いまして。最近楓様の機嫌が良いものですから」
すると、相変わらずの感情が読めない表情で仰られた言葉に私は内心驚きながらも、どういう意味なのかいまいち良く理解が出来ず、首を横に傾げる。
「今まで東郷グループの懇親パーティーが終わった次の日は決まって機嫌が悪かったんです。今回は泉様の件も加わったので、もっと最悪なのかと思いましたけど、この前のパーティーの後は嘘みたいに晴々としていて、あんな姿は初めて見ましたし、正直驚きました」
そう淡々と語り始める白鳥様の話に、私は静かに耳を傾けながらも、胸中は騒めき立ち、徐々に鼓動が高鳴ってくる。
「だから、今回も天野様に楓様のお誕生日をお伝えすれば、何かあるのかもしれないと思っていましたが……」
そこまで話すと、白鳥様は突然私の目をじっと見つめてきて、今度は別の意味で鼓動が早くなっていく。
「そしたら、見事期待通りで、まさかこれ程までとは。おみそれしました」
そして、急に白鳥様から頭を下げられてしまい、私は訳が分からないままその場で激しく狼狽える。
「そ、そんな。私はただ勝手に楓様のお誕生日をお祝いしたかっただけで、頭を下げられるようなことなんて何もないですよ?」
一体彼に何があったのか。確かに、あの時楓様は喜んでいらっしゃったし、達成感もあった。
けど、つまるところ、ただ私は一方的に想いをぶつけただけなので、そこまで言われてしまうと大変恐縮してしまう。
そんな私の様子を黙って眺めていた白鳥様は、無表情からの不意に口元を緩ませてきて、私は再び驚愕の眼差しを向ける。
「ご存知でしょうけど、楓様はもうすぐ結婚されます。そうなれば、おそらくそちらに足を運ぶ機会は激変するでしょう。そして、今以上に自由に動けなくなると思います」
どんな言葉をかけられるのかと思いきや、予想とは裏腹に厳しい現実を突きつけられてしまい、とんだ見当違いの話に私は一気に表情が曇りだす。
「だから、そうなる前に、せめて少しでも息が吸える環境に触れられればと思っていましたが、天野様がその役目を果たして下さいましたので、本当に感謝しています」
そんな意気消沈している中、最後には予期せぬお礼の言葉を頂き、私は少しだけ表情が明るくなり始めるも、白鳥様も楓様同様、どんなに彼の事を思っていたとしても、結婚話に関して不平を漏らすことなく現状を受け入れている様子に、私は胸が痛みだす。